最初に申し上げなければならないのだが、実はこの作品、1巻に落丁があったことが後に明らかになった。「理の橋」の2話目が脱落して、3話であるはずの話が2話として収録されているのだ。
で、どうなったかというと、電子書籍版においては、2巻に「理の橋」の1話から最終話までが(一部の再録を含めて)収録される、という形になっている。というわけで、2巻を買って頂かないと1巻分の落丁の補填ができないので、その点悪しからずご承知おき頂きたい。
漫画「二つの歌三つの物語」2巻あらすじ
この作品は2巻で完結なのであるが、2巻は一巻まるまる費やして「理の橋」という長編が収録される形となっている。1巻から登場している一家の長男・イタクノアと、その猟犬であり同時に女性のカムイでもあるレタラの物語である。
漫画「二つの歌三つの物語」2巻ネタバレ
4本指の熊神(イネプアシケペッキムンカムイ)。人を襲う危険なヒグマである。そのヒグマを、討伐するためにイタクノアは人々と共に狩りに出かける。ちなみにヒグマ狩りは彼は初めてである。
ちなみに神々のおわす世界であるので、神々の間でもイネプアシケペッキムンカムイの存在は問題になっている。アイヌの神話世界においては、神々(カムイ)というものは動物の姿をとって地上にかりそめの生を得ているだけであり、その本当の住処は神々の世界にある、ということになっている。
というわけで、レタラはイネプアシケペッキムンカムイを神々の世界に「連れ戻す」(人間界で具体的に起こることはといえば、殺すということなのだが)ためにやってきた身なわけである。
イネプアシケペッキムンカムイというのはアイヌの神話にはしばしば登場する有名な荒神であるらしい。神だから賢いのか何なのか、なんと討伐隊の裏をかいて、人間の村を襲撃するという悪知恵を働かせる。討伐隊、というかイタクノアはそれに気付き、かろうじて村が襲撃されるタイミングで馳せ戻ることに成功した。レタラも一緒である。
レタラはキムンカムイ(熊神)を説得しようとするが、結局それには失敗する。最終的には、イタクノアの弟の一人がキムンカムイを射殺す。ちなみに熊狩りには毒矢を使うのがアイヌの風習なので、おそらくはそういうことなのであろう。
さて熊神退治は完了したので、レタラもまた神の国に帰ることになる。ちなみにアイヌの神話においては、神と人間の異類婚姻譚というのは存在はするのだが、神に魅入られた人間は人間の世界の法則から切り離され、死後には神の国に連れ去られてしまうということになっているらしい。
とはいうものの、惚れた腫れたの話の結末なんてものはだいたいどこの世界でも万国共通のことわりというものがある。結局のところ、イタクノアは人間の姿になったレタラを連れ帰り、自らの妻とするのであった。
漫画「二つの歌三つの物語」2巻の感想

最近、アイヌ関連の話題を聞くことが盛んである。残念ながらこの作品のためではなく、『ゴールデンカムイ』がヒットしているからであるが。
アイヌの神話を再構成して漫画化する、というアプローチは、けっこうありそうな気はするのだが、探してみるとあんまりないような気がする。ちなみにこの作者樹るうは、これ以前にも『ニャンコロカムイ』という作品で同じアプローチに挑戦している。その後を受けて描かれたのが『二つの歌三つの物語』から『理の橋』にかけての物語であったというわけだ。
前に別の作品の紹介で書いたことがあると思うが筆者はほとんどデビュー当時から樹るうのファンをやっているわけである(サイン会に行ったこともあるぞ)が、こうまで長いファン活動を続けることになるとは思わなかった。今後も、できうることならアイヌ神話系の作品をまたものにしていただきたいものである。
※各電子書籍ストアにて試し読み可能。電子書籍ストア内にて「二つの歌三つの物語」で検索すると素早く絞り込みできます。