ダンディズムに惚れる・真似したくなる…漫画「孤独のグルメ」あらすじ・ネタバレ感想

孤独のグルメ
孤独のグルメ
作品名:孤独のグルメ
作者・著者:久住 昌之 / 谷口 ジロー
出版社:扶桑社
ジャンル:青年漫画
掲載誌:SPA!コミックス

漫画「孤独のグルメ」あらすじ

主人公・井之頭五郎は、腹を減らしていた。商談のあと、道に迷い、とあるうらぶれた商店街に辿り着く。そこで、めし屋を探す。「食事処」ののれんを見つけ、意を決して、入る。ぶた肉いためとライス、とん汁、そしておしんこを注文する。食べる。「うまい」と思う。勘定を済ませる。帰る。そして、振り返る。「俺は、あの店には不似合いな客だったんだろうな」と。

以上が第1話「東京都台東区山谷のぶた肉いためライス」の粗筋である。

本当にただ、これだけだ。

『孤独のグルメ』という漫画には、昔の美食漫画ではお約束だった「料理対決」なんてものはない。よりうまい食事や食材を求めて西へ東へ、なんてこともしない。ただ、食べる。通りすがりに食べる。淡々と、食べる。生きるために、食べる。そして、何がしか感想めいたことを述懐する。その繰り返しだけで、一つの作品が成り立っている。

漫画「孤独のグルメ」ネタバレ

『孤独のグルメ』は、伝説的な名作である。
最初に刊行されたのは今から20年も前だが、いまだ愛読者が多く、作中に登場する店は「聖地」となっている。ちなみに、TVドラマ化もされており、それが長くシリーズ化し、今でもたまに新作が出る。

グルメ漫画という分野全体で見てさえ、『孤独のグルメ』と並べて語れるような作品はそうそうない。

何がそんなに魅力的なのだろうか。「出てくる食べ物が格段にうまそうである」というわけでは、ない。井之頭五郎は、通俗的な意味でのグルメ、つまり、高級レストランに日々通うなどといったことに喜びを見出す男、ではない。

あるときは、回転寿司屋に入って「気楽でいい」とのたまう。あるときは、コンビニで夜食を買い込み、「このきゅうり(漬物)、うまくないな」などと独り言を言う。

いや、貧乏なわけではない。彼は個人貿易商で、妻子もなく、羽振りはよさそうだ。実際、銀座でステーキ食ってる話もある。だが、彼はとにかく、気取らない。いや、ある意味彼なりには気取っているというか、こだわりは持っているのだが、スノビズム、俗悪な金持ち気取りの嫌らしさというものが彼にはまったくない。

井之頭五郎は何者なのかといえば、「グルメ」なのである。ここで筆者が言うグルメとは、本来的な意味でのグルメ、つまり、「食に美学と哲学を持った人間」のことだ。実際、ある話で五郎は自ら語っている。

「モノを食べるときはね 誰にも邪魔されず 自由で なんというか 救われてなきゃあダメなんだ 独りで静かで豊かで……」

これが、井之頭五郎という男なのだ。

漫画「孤独のグルメ」感想

井之頭五郎の最大の魅力は、その独特の言語センスにある。食べる、という行為を、彼は常人とは少しばかり違った視点から切り取り、そして言語化する。例を挙げよう。

「このおしんこは正解だった 漬かりぐあいもちょうど良い ぶたづくしの中ですっごく爽やかな存在だ」(第1話より)

「ごはんがあるのか! うん!そうかそうか そうなれば話は違う ここに並んだ大量のおつまみがすべておかずとして立ち上がってくる」(第4話、朝からやっている奇妙な居酒屋で)

「早くご飯こないかなぁ 焼肉といったら白い飯だろうが」(第8話、焼肉屋にて)

「こういうの好きだなシンプルで ソースの味って男のコだよな」(第17話、公園でカツサンドを食べながら)

如何だろうか。どれ一つとっても、「」があるように思う。

さて。最後にもう一つ、井之頭五郎の、そしてこの作品の魅力を述べよう。

この作品のタイトルは、『孤独のグルメ』である。五郎はグルメであるが、ただグルメであるだけでは、この作品はおそらく完全には成り立たない。なんとなれば、『孤独のグルメ』と題される以上、この物語の主人公は、孤独でなければならないのだ。

第1話にもう一度話を戻そう。前述の通り井之頭五郎は羽振りのいい個人貿易商であり、第1話の舞台は、山谷だ。山谷というのはドヤ街である。いいスーツを着た人間が、山谷の食堂でひとり飯を食って、浮かないはずもない。めしを食ってうまいと感じる気持ちは同じでも、五郎は、山谷の住人の中に溶け込むことはできないのだ。

だいたいどこへ行っても五郎は「最初から一人で飯を食っている」か「周囲に人はいるのだが一人だけ浮いている」かのどちらかなのだが、中でも特に彼の孤独が際立つのは第7話だ。

第7話では、五郎は大阪にいる。なんとなく食事に入る店を決めかね、結局ホテルの前のたこ焼き屋台に入る。そこで、地元の人々と共に、たこ焼きを食べる。

だが、大阪流の人情の世界、ボケとツッコミの世界の中で、彼はどうしようもなく浮いてしまう。

大阪の人々はたこ焼き屋に東京モンが入ってきたからって別に邪険にするでもなんでもなく、むしろ五郎に対しても友好的で、楽しく歓談に興じているのだが、五郎は一人、雰囲気の中に混じっていけない自分自身に、微妙な肩身の狭さを感じている。そこに彼の「孤独」があり、そしてその孤独があるが故に、彼自身が言う「食べるということの救い」は際立つ。

総じていえば、孤独であり、グルメであるが故に、井之頭五郎は、ダンディーなのだ。

筆者はそのダンディズムに憧れ、たまに井之頭五郎の真似をしてふらっとその辺の「めし屋」などに入ってみることがある。しかし遺憾ながら、たいがいは失敗する。ろくな店にあたった覚えが無い。『孤独のグルメ』道は、常人が探求するには険しい道なのである。

孤独のグルメが試し読みできる電子漫画サイト

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ちなみに電子版は「孤独のグルメ(新装版)」として販売されている。カバーも変更されているので間違えないようにして欲しい。

孤独のグルメ 新装版

これが新装版のカバー。漫画の内容に変更点はなし。