はじめに。本稿では実在の疾病に関する情報を取り扱うが、医療上の参考資料になるようなものではないので、念のため。
さて、『リウーを待ちながら』は疫病によるパンデミックを取り上げた全3巻の作品である。筆者はこの作品のことしか知らないが、作者・朱戸アオ氏はこういう医療ものばかりを手掛けているらしい。
リウーを待ちながら【1巻あらすじ】
物語の舞台は「静岡県横走（よこばしり）市」。話の内容が内容なので架空の名になっているが、自衛隊の総合火力演習が行われている、人口十万人足らずの小さな町である。
ともあれ自衛隊と関わりの深い町であるわけだが、そのことが物語のキーになってもいる。
作中、自衛隊が救助活動のために疫病の発生した中央アジアに派遣されているのだが、一人の自衛隊員がそこで病を貰ってしまい、そしてそれを横走で流行させてしまうことになる。そこから始まる物語である。
リウーを待ちながら【1巻ネタバレ】
主人公は玉木涼穂（たまき すずほ）という若い女性の医師。横走中央病院の呼吸器内科に勤務している。その病院に、ある日自衛隊員の急患がやってきた。いや、やってきたというか、病院のそばで力尽きて倒れていたのである。心停止の状態にまで陥っていたのだが、かろうじて救命には成功する。
しかしその日、普段なら考えられないことに、二名の搬送患者が横走中央病院で亡くなった。不審に思った玉木は、サンプルを疫研というところに送り、調査を依頼する。それから数日、次々に謎の病死者が現れ、そして日々増えていく。その中には横走中央病院の、玉木の相棒だった看護士まで含まれていた。
で、情報量が多い作品なのでざっくりと話をはしょるが、疫研のサンプル解析と、玉木の臨床所見が一つの結論に辿り着く。
病の正体は、ペストであった。
さて、どうしても説明が必要なので、ここでペストの話をする。ググったりWikipedia見たりした限りではどうやら以下のことは本当の話らしいのだが、最初に書いた通り内容に医学上の責任は持たないので念のため。
ペストにはいくつかの病態がある。代表的なのは「腺ペスト」と「肺ペスト」である。腺ペストはノミが媒介する。肺ペストは人間から人間へ空気感染するが、ふつうは腺ペストの流行の後にしか現れない。
ただし、唯一の例外がある。モンゴル語でタルバガンと呼ばれる中央アジアに暮らす小動物、こいつだけは地球上で唯一、ノミを媒介とせずに肺ペストを人間に感染させることができるのだ。
つまり、中央アジアから自衛隊が持ち帰ってしまったペストは、このタルバガンの肺ペストだったのである。
疫研の出番はこれで終わりではなく、ウイルスの専門家である原神（はらがみ）という若い男性の研究者が、検査結果が出て早々に横走に自らやってくる。そして混乱の始まった横走中央病院で、玉木に協力して非常医療体制の構築を始める。
そうやってる中で運び込まれてきた患者の中に、玉木の相棒だった看護士（既に故人）の娘さんがいた。中学生である。抗生物質が効いて（ペストは恐ろしい病だが、効く薬はある。ただし……）、意識を取り戻すのだが、主だった登場人物の三人目くらいのポジションにいるキャラなので覚えておいていただきたい。
ここまで、死者は多く出ていたが状況がつまびらかになったこともあって事態は収束に向かうかに思われた。ところが、原神が大変なことに気付く。横走市にはかつて、多剤耐性のサルモネラ菌の流行が起こったことがあった。多剤耐性とはつまり、抗生物質が一切通じないということであるのだが、実はペストにはサルモネラ菌と接触すると多剤耐性を獲得してしまう性質があるのである（らしい）。
そして、そのことが分かったのとだいたい同じころ、玉木たちは極めて厄介な事実に気付く。患者たちの中に、既に「どんな抗生物質も効かない」という症状を示して死亡した者が多数存在していたのである。といったあたりで、2巻に続く。
リウーを待ちながら【1巻の感想】
ぐいぐいと読み手を引き込むような、実にスリリングな作品である。全体から言えばまだ序章のような段階なのであるが、引き続き2巻、3巻のご紹介をしていきたい。
リウーを待ちながら
富士山麓の美しい街・S県横走市──。駐屯している自衛隊員が吐血し昏倒。同じ症状の患者が相次いで死亡した。病院には患者が詰めかけ、抗生剤は不足、病因はわからないまま事態は悪化の一途をたどる。それが、内科医・玉木涼穂が彷徨うことになる「煉獄」の入り口だった。生活感溢れる緻密な描写が絶望を増幅する。医療サスペンスの新星が描くアウトブレイク前夜!!
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