えー、ふみふみこによる半自叙伝的漫画『愛と呪い』、完結の3巻である。
愛と呪い【3巻あらすじ】
2巻では高校生だった主人公・愛子であるが、3巻では20歳になっている。大学などには行っておらず、実家で引きこもりになっている。過食ならびに摂食障害の傾向があるようで、ひどく肥満体になってもいる。
そのへんから、引きこもりから立ち直り、就職もし、結婚し、でもやっぱり無理が出て仕事も結婚も駄目になって、でもなんとか生きている、というのが描写されて終わりである。
ちなみに、漫画家になった経緯とかそういうのは全然出てこない。まあ「半」自叙伝だしな。
愛と呪い【3巻ネタバレ】
引きこもりになっている愛子、一回だけ2巻の登場人物・田中にメールする描写がある。だが、送ったもののメールは届かなかった。メールアドレスを変えられるか何かしたらしい。で、また死にたいだのなんだのとうだうだゴネている。
引きこもりから脱したきっかけはインターネットであった。親がインターネットを、と言うのは変か、パソコンを買い与えてくれたので、それで外界と繋がるようになったのである。
で、社会復帰に挑戦した主人公、就職してみたり、オフ会とか出たりもするようになる。だがやっぱり心身が危ういことに変わりはないので、出会った男を押し倒すようにセックスしたりなんかして、結局それがきっかけで結婚してしまう。
結婚生活、当初はそれなりにそこそこやれていたようなのだが、主人公が勝手に薬をやめてしまったり(通院自体はしているようだ)したのがきっかけでバランスを崩し、家事もできなくなってしまう。
そんなこんなするうちに、主人公はある日、暴力事件を起こす。駅で見知らぬ人に殴りかかったとかいうのだが、本人は「まったく記憶がない」という。なかなかに重傷である。
主人公はただひたすらに、普通の人間になりたい、普通の人間にどうして自分はなれないのか、と苦悩している。
ちなみに取り調べの途中で大地震が起こる。東日本大震災である。本筋にそう大きく関わってくるわけではないのだが。で、そのちょっと後くらいに、離婚だ。
そのあと、母親と会うくだりがある。今の自分はもう「殺したい」とも「愛して欲しい」とも思っていないから安心してほしい、みたいなことを言っている。だいたいそんな感じで、割とふんわりと、たいした落ちもなく物語は終わる。
愛と呪い【3巻の感想】
何が驚いたって、1巻とも2巻とも絵柄がまったく違うのである。漫画としての技巧のなせるわざであろうが、まあ、そのように演出しているのであろう。
ちなみに巻末には作者の対談が収録されていて、その他にも、一話終わるごとに何か現在の作者自身による述懐のようなものが差し挟まれている。
さて。ここまでの総論としての感想なのだが。
正直、気の毒な経緯があるとはいえ頭のおかしい人がひたすらに自分のおかしさを綴った、ひたすらに頭のおかしい作品である。だが、同時に、これは「マンガ」として完成させられた作品だ。
この作者とはまったく関係ない別の漫画家(鬱病持ち)が昔書いていたのだが、どんなに異常なことを描いているように見えても、それが「作品の表現」として表出されている限り、それは「おかしい自分」を「冷静に見つめている自分」がどこかにいて、それで初めて漫画というものは書くことができるのだという。
まあ、この作品にしてもそうなのだろう。それなりに年を取り、落ち着いたからこそ、振り返り見ておかしい自分を描いた自叙伝など描くこともできるというわけである。
いわゆる意味での「優れた作品」ではない。だが、心の深い所を抉ってくる作品なのは間違いない。
愛と呪い
物心ついた頃には始まっていた父親からの性的虐待、宗教にのめり込む家族たち。愛子は自分も、自分が生きるこの世界も、誰かに殺して欲しかった。阪神淡路大震災、オウム真理教、酒鬼薔薇事件……時代は終末の予感に満ちてもいた。「ここではないどこか」を想像できず、暴力的な生きにくさと一人で向き合うしかなかった地方の町で、少女はどう生き延びたのか。『ぼくらのへんたい』の著者が綴る、半自伝的90年代クロニクル。