忘れられない【ネタバレ感想】哀愁漂う1巻読み切り完結の短編集!

忘れられない

一巻完結の短編集である。

作者の人となりなどについては後述するが、少女漫画畑出身の漫画家だ。

忘れられない【あらすじ】

表題作にあたる「忘れられない」前後編、そして2本の短編「つまさきで踊る」「エンドレスマーチ」、ショート作品「春の前日」の4作品が収録されている(あとあとがき的なエッセイ漫画が2ページ)。

それぞれ完全に独立した作品であるので、個別に語っていくとしよう。

忘れられない【ネタバレ】

忘れられない

忘れられない

個別の作品だと言っておいていきなりなんだが、たぶんこのタイトル『忘れられない』は全作品にかかってきているのではないかと思われるふしがある。なお英題は『THE UNFORGETTABLE』だそうである。

では表題作から解説にかかろう。この物語は、「忘れられない」ことをあえてさらに「忘れない」とする誓いの物語である。

主人公であるOL・智花の母は、昔から一年に一度だけ、家を空ける習慣がある。それだけならそれがどうしたという話なんだが、その年は事情が違った。帰ってこないのである。日帰り旅行のつもりが、気が変わったとか用ができたとかそんな理由で、電話をかけてきたのだという。

智花の父はすべての事情を知っているらしいが、教えてはくれない。智花は、ひょんなことからアルバムを見つけ、事情の一端を知ってしまう。母には、智花の父(血縁上の父である)と結婚する前、別の夫がいたのだ。

その人に会いに行っているのか、と父親に詰め寄る智花。結局、母親のところ(行き先はわかっている。奈良である)に問い詰めに行くことになる。

という話と並行して、智花自身の恋愛の話も展開していく。智花には学生時代からの恋人がいたのだが、遠距離恋愛になったのがきっかけで破綻してしまった。その相手のことを今も想い続けているのだが、今は友人同士の間柄である。

その相手に母親のことを相談するうち、勢いでやけぼっくいに火がつき、二人は一夜をともにすることになった。ところが、智花自身はとっくに知っているが読者は知らなかったことがここで明かされる。その彼にはいまは妻子がいるのである。

さて、智花は母親に会いに行く。会ってしまえばどうということはない。説明される。前の夫という人は三十年以上も前(智花の父と母が出会う前)に亡くなっていて、その出会いの場所を毎年訪れていたのだということ。忘れられないけれど、そして今年で思い出の場所は区画整備でなくなってしまうけれど、それでも自分は変わらずに生きていくのだということ。

で、その後帰ってきて智花は過去の恋人にきっぱり別れを突き付ける。もう会わない、連絡も取らない、と。だけど、あなたのことを忘れるんじゃない、ずっと忘れない、と。

力強く、そして哀しく物語は幕を引く。

つまさきで踊る

敏腕だけど言いぐさがはっきりしすぎているせいで恋人も作れない29歳の編集者の青年が、本屋の店員のお嬢さん(年齢不詳だけどだいぶ年下)に懸想されて少しずつ変わっていく話。ごたぶんにもれずそのお嬢さんにも振られそうになるが、彼女のことだけは「忘れられそうもない」ということで、こっちは普通にハッピーエンド。

エンドレスマーチ

祖父からの遺言状での贈り物は「思い出のアレ」とだけ書いてあった。たぶんそれは「ブリキの人形」のことだろうと主人公の少女は思うのだが、ブリキの人形は骨董店の店員に遺贈されていた。どういうことか、といぶかる主人公、結局その店員さんのもとに通うようになり、仲良くなり……忘れられない思い出が人の心を繋いでいく、心温まるハートフルラブストーリーである。

春の前日

10ページくらいのショート。昔の男友達から結婚の連絡が来て、振り返り見れば彼のことが好きだったんだな、と思うという掌編。

忘れられない【感想】

忘れられない

筆者が谷川史子氏のことを知ったのはもう二十何年も昔のことである。『りぼん』の作家に新星がいる、みたいな噂になっていたのだ。

まだインターネットもろくになかった時代に。正直、ここ十何年いちども触れていなかったのだが、久々に読んだら練達の境地に達していて、感心することしきり。

あ、この作品は読み切りですので、初読の方にももちろんおすすめですが(宣伝)。


忘れられない

忘れられない

原作・著者谷川史子
価格398円(税別)

その日、母は帰ってこなかった。秘められたその過去を追いながら、自分自身の忘れられない恋と向き合う智花。そして出した結論は──? 愛しつづけることの意味をあたたかい視線で問う表題作ほか、胸にせまる読切り3編を収録。 【収録作品】忘れられない/つまさきで踊る/エンドレスマーチ/春の前日/告白物語

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