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漫画「Heaven’s Door 彼女の最期の夏」あらすじ
この作品はノンフィクションのエッセイである。「半年前」、作者と女同士二十数年来の友人関係にあった「ひーちゃん」の肝臓に、癌が見つかる。
雑駁(ざっぱく)なレベルでものを言えば、肝臓がんは比較的見つけやすく、手術もしやすく、予後もよい癌の部類に入る。だが、ひーちゃんの癌はそういう普通の肝臓癌ではなかった。
「肝内胆管がん(胆管細胞がん)」。胆管上皮から肝臓内に発生する悪性腫瘍で、発見も難しく、状態によっては手術も不可能な場合があり、予後は極めて厳しい。
この物語は、それから「半年」の闘病生活と、若干の「その後」を描いたものである。
漫画「Heaven’s Door 彼女の最期の夏」ネタバレ
ひーちゃんという人物は、何と言うかとてもフェミニンなタイプの女性である。職業はブティックの経営者で、仕事の上ではやり手で、交渉術にも長けているが、仕事でやり手だったり交渉がうまかったりするからといって、およそ人生というのは非情なもので癌がどうにかできるわけではない。
一番はじめ癌が見つかった直後には、手術のスケジュールが組まれた。ひーちゃんは、来年の夏はビキニが着たいから傷口が目立たないようにしてくれと医者に懇願したという。そんな彼女を、作者は「とても強く、そして弱いひと」と表現する。要するに前向きと言えば前向きなのだが、同時に、自分が置かれている状況を直視することができずにいるのだ。
だが結局、手術を受けることはなかった。それはネットで肝臓がんについて調べているだけの作者にも分かるくらい、ゾッとするほどの「悪い知らせ」であった。つまり手術適応にならないほど状態が悪いということなのである。
この時点ではまだけっこう元気は残っているので、ひーちゃんは作者とともに、空元気を振り絞って海外旅行に出かけたり、様々に生を謳歌する。同時に、空しい希望にすがってマクロビオティック(食事療法。バッサリ言ってしまえば、気休め)などに手を出したりもする。
最初の病院は広島なのだが、ひーちゃんは長く東京で暮らしていた人だということもあり、医者にさじを投げられてしまったということもあり、東京の病院に転院する。脳に転移したがんのせいでろれつが回らなくなったり、それを(その部分だけは)放射線治療で治療してどうにか小康状態を取り戻したり、色々細かい出来事はあるのだが、ばっさり言ってしまえば、すべては転がる坂の上だ。
最終的に、おそらく全身に転移しているのであろう末期がんのために、療養向けホテル(よく分からないがそんなようなものが世の中にはあるらしい)にさえもいられなくなり、病院に舞い戻って、最後は苦痛に耐えかねて意識が落ちるレベルの鎮静剤をかける。漫画や作り話ではないので、あとはそのまま目を覚まさず、ひーちゃんは不帰の客となったのであった。
あとは余談であるが、むかし浮名をながしまくったフェミニンな女性のことであるので、元恋人などが大勢葬式に押しかけてきて大変だったらしい。
漫画「Heaven’s Door 彼女の最期の夏」感想
表紙にはイラストがないのでお分かりいただけぬかと思うが、(作者の執筆履歴などは調べていないが)画風は女性誌、女性向け漫画誌のそれである。そして、漫画作品としてそんなに技巧に富んでいるというわけではない。全体的に、淡々と、いかにも女性向けの女性のエッセイ的に話は展開していく。
だからこそ、そのシンプルな描写の合間合間にある、人の命の重さと軽さが読むものの胸を打つのだ。
別にここに描かれていることは格別特別なことではない。人は誰だってそれ相応の終わりを迎えるのであるからして。そういうことと向かい合わせてくれる、そういう作品であった。
Heaven’s Door 彼女の最期の夏
漫画家秋本尚美の友人が現代医療では治療法のない癌によってこの世を去った。余命半年をつげられながらも懸命に生きるために行動を起こす彼女…。マクロビオティックを勧める母親、エビデンスのない治療をしてくれる病院を紹介してくれる元彼…彼女にかかわる人々が彼女に生き続けてもらうために動き始める。闘病と死を通して生きること、癌で死ぬということ、さじを投げられた患者として病院に望むことなどを浮き彫りにするエッセイコミック。