漫画「えれほん」ネタバレ感想!ディストピアを描く傑作SF短編集!

えれほん

表紙で完全に騙しに来ているが、SFである。

漫画「えれほん」あらすじ

中編が三本と、掌編が一本収録されている。中編三本は「第一部」「第二部」「第三部」と目次にあるが、描かれているのはそれぞれ異なる世界で、ストーリー的な繋がりはない。共通のテーマらしきものはあるが。

漫画「えれほん」ネタバレ

善き人のためのクシーノ

第一部。なんというか……ディストピアSFのグロテスクなパロディのような作品である。いわゆる「キモオタ」的な人々が支配者として君臨しており、「リア充」的な人々は弾圧され、迫害を受けている。そういう世界だ。

主人公は体制側の官憲、住田。そんなに醜いというほどの顔をしているわけではないが、いかにもオタクといった感じの風貌。

住田は上官から一つの命令を受ける。とある一人の「ドル」(アメリカの通貨じゃなくて、アイドルの事)の内偵である。この世界ではアイドルというものは完全に違法化はされていないが、まあ地下活動紙一重のところにいるらしい。

ところがどっこい、まあよくある話ではあるのだが、住田はそのアイドルにぞっこん惚れ込んでしまった。恋人がいる事実を突き止めたりするのだが(※この世界では違法)、その情報を自分の手元で握り潰してしまう。あれだ。タイトルからして明らかにそうなのだが、『善き人のためのソナタ』(という映画。アカデミー外国語映画賞を取った)へのオマージュである。

住田は最終的に、そのアイドルを亡命させようとするのだが、住田自身も実は最初から監視されていたということが明らかにされ、結局捕まってしまう。

住田は処刑されはしなかった。彼の手元に届いたのは、「人間の器官を流用していて、妊娠する機能を持った抱き枕」。ちなみに、クシーノとはイタリア語でクッションのことらしい。住田はその枕の正体に気付き、慟哭する。

かいぞくたちのいるところ

第二部。第一部よりさらに難解なSFで、これもディストピアを描いているのだが、この世界で厳しい監視のもとに置かれているのは「著作権」である。

主人公は人々を教化するための収容所の所長で、もう一人、「先生」と呼ばれるレジスタンスの指導者が出てくる。

所長は先生の手にかかって拉致され、収容所の囚人たちを解放するから協力しろ、と脅迫される。そこで展開される二人の問答が、とにかく長くて重厚なのである。ちょっと噛み砕きようがない。完全に、ハードなSFだからだ。匙を投げるようなことを言って申し訳ないが詳しくは読んでいただくより仕方がないと思う。

もう人間

第三部。第一部、第二部よりはずっと現実世界に近い未来世界が描かれる。この世界は、「中絶の禁止された世界」である。

といっても普通の中絶がテーマなわけではない。「アンビリクス症」。出産されたあとも臍帯(さいたい。いわゆる「へその緒」)で母親と繋がっていないと死んでしまう、という奇病がこの世界には存在する。

主人公の女性はジャーナリストで、アンビリクス症の関係者を取材して回っているのだが、実は本人自身もアンビリクス症の子を妊娠中である。

主な登場人物として、「母親が植物状態で、病室で株のトレーダーなどをやって暮らしているアンビリクス症の男性」が登場する。

この作品は、生命倫理に関する深い問いかけから成っている。だが、例によってかいつまんで説明するにはちょっと重厚すぎるアレなのでして。

漫画「えれほん」感想

えれほん

個人的に一番好きな作品は「もう人間」である。

ハードSFにありがちな「人間が書けていない」というアレを問答無用でねじ伏せる、人間の感情というものを鋭く描いた傑作だと思う。

うめざわしゅんという作家のことはまったく知らなかったが、20年以上ものキャリアがあり、しかし寡作な作家であるらしい。ちょっと他の作品にも興味が出つつある。どうしようかな。


えれほん

えれほん

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