『血の轍』『ぼくは麻理のなか』などの作者である押見修造氏の、2011年から2012年にかけて描かれた作品である。一巻完結。
漫画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」あらすじ
本作品は吃音をテーマにした高校生の青春ものである。
吃音症というのは、「どもり」とも言って、話し言葉がなめらかに出てこない、発話障害と呼ばれるものの一種だ。100人に1人くらいいるそうで、そんなに珍しいものではないのだが、作中では「なんだか分からないが緊張して喋れなくなるもの」くらいに扱われ、吃音という言葉は出てこない。
さて、主人公・大島志乃は自分の名前をうまく発音することができない悩みを抱える少女である。高校に入学して最初の挨拶で盛大に吃音を出してしまい、いじめとは言わないまでも人からからかわれるようになったりして、クラスでも孤立してしまう。
しかしある日、加代という友達が出来る。
加代は「うまく話せないんなら筆談すればいいじゃん」と言って、紙とペンを渡してくる。この物語は、だいたいにおいてこの志乃と加代のふたりによる青春物語として展開してゆく。
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漫画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」ネタバレ
徐々に親しさを増していく志乃と加代であったが、志乃がはじめて加代の家に遊びに行った日、ギターが置いてあるから弾いてみてくれというのだが、加代があまりにも音痴なので志乃は思わず笑ってしまう。結果として喧嘩になった。
ちなみに、吃音よりずっと認知されていないが、音痴も一種の脳機能不全から来る障害の一種である。
さて、二人はなんだかんだで仲直りするのだが、加代はギターを弾くのはできて、志乃は歌うことならできる(こういうのが吃音症の不思議なところ)というので、デュオを組んで文化祭でライヴをやらないか、という話になる。
割と思い切りのいい加代は練習もそこそこに路上ライヴに飛び込んだりするのだが、そこにたまたま通りかかったクラスメイトがいた。菊池という名前で、以前志乃が吃音症であることをからかったことがあるので、恐慌にかられた志乃は逃げ出してしまう。
だが菊池は加代と仲良くなり、三人で作詞・演奏・歌唱を担当して文化祭に臨もう、などと言い出す。菊池を苦手にしている志乃はかなり困り始め、二人と距離を置くようになり、結局練習にも参加しなくなってしまう。
どうも学校は夏休みであるらしいのだが、外で偶然菊池と出会った志乃は、菊池にいつぞやからかったことを謝られ、なんと「恋の告白」をされる。だが志乃はその場面からもやっぱり逃げ出してしまう。
結局、三人(もしくは二人)でライヴをやるという話はなしになってしまったが、文化祭当日、加代は独りで舞台に立ち、ギターを弾きながら歌った。当然みんなの笑い物になるのであるが、そこで志乃が叫ぶ。
「私は!自分の名前が言えない!」から始まる一世一代の演説である。割と周囲のみんなを感動させたりするところで、その場面は幕となる。
次のシーンでは、志乃は大人になっていて娘がいる。吃音は変わっていないが、自分の名前を言わなければいけない場面では娘に言わせるなど、世知に長けるようになった模様。ラストのコマでは、志乃と加代と菊池の三人が一緒に卒業式に臨んでいる場面の思い出の写真らしきものが飾られているのが写っている。
漫画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」感想
あとがきに書いてあることだから書いてしまうが、この物語は自身も吃音症である押見修造氏の個人的体験をもとにして書かれた、半自叙伝的な作品であるらしい。作中に吃音とかどもりとかいう文字を入れなかったのは、単なる吃音漫画にしたくなかったからであるとか。
そういうわけで、この作品は青春漫画として見た方が通りはいい。よくできた作品であった。
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