ハチクロ2巻。1巻の感想で「異質な巻」と書いたが、この2巻目からぐっと「らしさ」が出てきて、もうほぼ完全にハチクロワールドが確立されている。
- 作品名:ハチミツとクローバー(2)
- 作者・著者:羽海野チカ
- 出版社:白泉社
- ジャンル:少女マンガ
ハチミツとクローバー 第2巻のあらすじ
時間的には、竹本の2学年目の正月から、あくる3学年目の春くらいまでが描かれる。
この巻で重要なのは、竹本・はぐ・森田・山田・真山(途中参加)・花本先生の5人で、旅行に行く話。ここで重要な伏線が敷設される。
また、このシリーズを通じて、この5人組グループが実質的な「主役」であり、彼らが一緒になって何かをする、というシーンがとても多い。
次に、話の大筋として重要なのは、真山の就職と内定が決定すること。2巻で「藤原設計事務所」に勤めることになった真山は、卒業の方も無事に済ませ、以後は社会人として作中に登場する。なお、出番の頻度などはあまり変わらない。
次に、山田は卒業はするが就職に挫折し(この作品が描かれた頃、日本は物凄い就職不況であったため、それが反映されている)、研究生として陶芸科に残ることになる。森田は、9割方完成という状態だった卒業制作作品をほったらかしたままどこかへ一時失踪してしまい、また留年する。
そしてもう1点。花本先生が、仕事の関係でモンゴルに行くことになる。
以下、詳細はネタバレの中で述べていこう。
ハチミツとクローバー 第2巻のネタバレ
2巻で起こる出来事の中で最も重要な点はおそらくこの一点。
はぐが、森田を異性として意識し始める。
きっかけは、旅行の最中である。そもそも、森田は、はぐをからかったりおちょくったりばかりしていたので、この時点までは、はぐにおおむね嫌われ、警戒されていた。
ところが、温泉旅館でふざけてうっかり部屋の掛け軸(多分安物)を破ってしまった森田は、「どうしよう怒られる!?そうだ!俺が代わりのを書こう!」と言いだし、カレンダーの紙の裏に、食卓の上の醤油で、画具すら持たず指で、龍神図を描き始める。
この瞬間、スッと、森田の纏っている空気が変わる。シリアスになるのである。おそらく、はぐが最も鋭くそれに気付く。
書いてしまうと、この物語の中には、二人の天才が登場している。森田と、はぐである。他のメンバーは、凡庸から秀才の域くらいにいるのだが、森田とはぐだけは、「芸術の歴史にその名を遺せるかもしれないレベルの」天才である。
はぐは、このときに初めて、森田が芸術的才能において天才であるということを知る。これをきっかけに、はぐは森田を意識し始める。同類の匂いを感じ取ったのだろうと思われる。
ちなみに、はぐは長野の出身である。田舎の家で、祖母とともに暮らしていた(2巻でそれが語られる)のだが、祖母が認知症を患ってしまったために、家庭の雰囲気は極めて暗く、じっと家に閉じこもって絵ばかり描いていた。その彼女の芸術的才能を見いだしたのは、花本先生である。
祖母が死に、はぐが一人になったとき(はぐには父親がいるのだが、仕事が忙し過ぎて家にまったく帰ってこない、という設定になっている)、花本先生ははぐを、自分が勤務している美大へと誘う。光の当たる世界へと。描き続けることで、世界が彼女を認めてくれる世界へと。
そんなはぐにとって、おそらく、森田という人間は、初めて出会った、自分と同等の、自分と対等の、同じ世界に住む生き物だったのであろうと思われる。
そうして、はぐの初恋が始まる。
ちなみに竹本の方はどうかというと、はぐとの間で、ほとんど親友とも言うべき親しさを構築していく。別の角度から平たく言うと、まったく男扱いされていない。
ハチミツとクローバー 第2巻の感想
さて。
この物語で、筆者が一番好きなのは、森田というキャラクターである。ゆえに森田について語る。1巻での森田は、ただの変人である。2巻で、天才であったことが明らかになる。森田は自分の本性や本心を滅多に見せることがなく、だいたい、いつもおどけているが、たまーに本性や本心をのぞかせることがある。そのようなときの森田は本当に魅力的だ。
とはいえ、まだ2巻である。とりあえず、いったん、話はここまでとしておこう。