アニメ化もされている代表作『クジラの子らは砂上に歌う』で知られる作者の、いわゆる初期短編集である。
裸足で、空を掴むように【あらすじ】
収録されている作品は掌編から中編まで合わせて五点。
内容的にはすべて独立しているので、個別に語っていくとしよう。
裸足で、空を掴むように【ネタバレ・感想】
銀の制約
美少年が女装をしている。美少年が女装をしている。(大事なことなので二回言いました)
といっても、そういう性的志向ないし趣味の持ち主ではない。女友達が二人いて、過去にデートの約束をダブルブッキングさせたことがあり、そのとき罰として「中学校に上がるまで女装して過ごしたら許してあげる」と言われたのでその約束を貫いているのだ。
ちなみに少年は地元の名士の長男なので、家に女中さんがいる。実は少年に女装を貫かせているのはこの女中さんである。「男なら一度した約束は守り抜きなさい」とかなんとか言い含めているのだ。
ストーリー的にはそれ以外何がどうというほどのことが起こるわけではなく、「女装少年とメイドさんが描きたかったから描いた」と作者もあとがきで明言している通り、それに尽きる作品である。
裸足で、空を掴むように
こちらの作品はヨーロッパ風の舞台を舞台にしたファンタジーである。黄昏どきになると「魔炎憑き」なる妖魔が出る、と街では囁かれている。物語の主役は警備隊に所属するフレイという美少年と、ナンナという内気な少女。ナンナはフレイのことが好きなのであるが、内気なので声もかけられずにいる。
ある日、フレイが魔炎憑きであるという疑いをかけられ、警備隊の職を解かれた。いわゆる魔女裁判みたいなものである。
魔炎憑きであるとされたフレイは道化として生きることしか許されない。どちらにせよ、冬も越せない命である(寒さの厳しい土地柄らしい)。そして冬のある日、フレイは倒れた。フレイを助けたのはナンナだったが、実はナンナこそが魔炎憑きであった。二人は手に手を取り合って、街から去っていく。
なかなかよくできたファンタジー作品だと思う。ちなみに、執筆順でいうとこの作品が巻中でもっとも新しい。
おちばの家
数ページの掌編。正直設定もストーリーもよく分からないのだが、雰囲気は温かい。
人形師いろは
古い作品で、「銀の制約」や「裸足で、空を掴むように」とは絵柄も作風もまったく違う。人間そっくりの人形を作って売っているいろはという少女の紡ぎ出す物語である。
全部で4話あるのだが、その都度ホラーだったり人情ものだったりする。正直、内容的にはかなり未熟さを感じる作品であるが。
幽刻幻談――ぼくらのサイン――
ある学校に、幽霊だけの学級があった。主人公の上野礼(うえの れい)は、交通事故死してその学級に編入になる。このクラスの生徒は全国から集まってきているらしいのだが、同じ学校から編入になる生徒は珍しいらしい(そりゃそうだ)。
さて、幽霊は生前の未練が叶うことによって成仏できる。みんなそれぞれの未練を抱えているのだが、希矢(きや)という少女の霊は「描きかけの絵を描き上げてみんなに見てもらいたい」という念願を抱えている。
それを邪魔するのが、清水という、生身の霊能力者の生徒である。幽霊学級の存在を知っていて、成仏させようとがんばっている。
で、礼は「誰かのために努力してみたかった」という未練を抱えているので、希矢のために清水と戦うことになる。絵は無事に描き上がった。めでたしめでたし。
画風は古いが、内容的にはそれなりによくできた作品だと思う。もっとも、こっちの方が「人形師いろは」よりさらに古いのだが。
裸足で、空を掴むように
異端の幻想作家、その魂の“記録”。黒い毛皮をまとう職人の街を舞台に靴職人の娘・ナンナのひそやかな想いを描いた表題作「裸足で、空を掴むように」のほか、「銀の誓約」、「人形師いろは」、「幽刻幻談―ぼくらのサイン―」(デビュー作)、「おちばの家」(描きおろしショート)を収録。
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