新しいシリーズをご紹介する。山口貴由『劇光仮面』。
劇光仮面【1巻】あらすじ
山口貴由という漫画家は現在現役の漫画家の中ではかなりベテランの部類である。代表作の一つ『覚悟のススメ』でブレイクしたのが1990年代、もう一つの代表作『シグルイ』はゼロ年代の作品だ。ケレン味たっぷりの作風で、アクションや剣劇が多いのだが、今回の作品はまったく違う。
まず、現代の、ほぼ現実の日本が舞台である。で、簡単に言ってしまえば「特撮美術」の世界を描いた作品だ。特撮美術とは、まあウルトラマンとか仮面ライダーとか、ああいうものに登場するヒーローや悪役の、着ぐるみを作る専門的な世界のことである。
登場人物たちは大学のサークルで特撮美術をやっていた。物語開始時点では大学はとっくに出ていて、仲間の一人の葬式に集まるところからスタートする。
劇光仮面【1巻】ネタバレ
この作品、時系列がいろいろ入り乱れていて、読む分には面白いのだが解説泣かせである。作中の時系列表現の通りにやるとここでは煩雑になりかねないのだが、しかし原作通りに説明していこう。
まず、葬式の話から始まる。東京の下町に住む主人公、実相寺二矢(じっそうじおとや)はアルバイトで生計を立てる29歳。かつての仲間、「特美研(特撮美術研究会)」の主催者であった切通(きりとおし)アキノリが死んだので、葬式に行く。その場面から回想に移る。
切通は大学のサークル主催者なのでメンバー募集をしていて実相寺と出会うのだが、要するに二人とも特撮オタク同士であったのでそれで気が合った。二人が好きなのは「70年代の特撮」。「火と重力と水」は本物をそのまま使っていた、そういう時代の特撮である。切通はゼノパドンというキャラクターの着ぐるみを着ていて、そのキャラクター名を言い当てた実相寺と友人になったのであった。
さて、葬式のあと、本人の遺言を実行することになる。自分が着ていたそのゼノパドンの着ぐるみを破棄してほしい、というのである。ただゴミに捨てればいいというだけの話ではないらしく、特撮衣装オタク(元、も含む)たちが集まって、別の特撮衣装を着て、しかもそれただの着ぐるみではなく事実上パワードスーツみたいな代物なのでそれで刀を振って衣装を切断する。
回想シーン。実相寺と切通が、その特撮で特撮美術を手掛けていた美術家(存命だが高齢)に面会を求め、会いに行く場面。老人が実相寺を見て驚く。君はいったいいつの時代の青年なのか、と。意図が分からない実相寺は平成生まれ19歳ですと答えるのだが、君はまるで特攻隊の若者たちにそっくりだ、と言われる。
実は老人は、伏龍特攻隊という、潜水服を利用した特攻隊(実在します。詳しいことが知りたい方はググってみてください)の生き残りだったのである。その生き残りとしての無念などが特撮作品の造形にも表れている、というような話を語る老人。
ところで、仲間の何人かは「スーツアクションはもうこりごり」みたいなことを言っている。どうも、大学時代に何かトラブルがあったらしい。におわせる程度ににおわせて、次巻に続く、となる。
劇光仮面【1巻】感想
タイトルと作者だけは把握していたが内容はまったく知らなかったので、実は直接読むまでてっきりヒーローものの活劇だと思っていた。だいぶ違ったので驚いた。というか、一巻を読み終わるまで、突然主人公が本当にヒーロー活動をはじめやしないかとヒヤヒヤし、それは読者だけの感想ではなく作中の実相寺の友人たちもみんな思っているのである。あいつならやりかねないと。
作品そのものは落ち着いた筆致で描かれているのだが、何しろ『覚悟』『シグルイ』の山口先生のペンタッチはそのものなので、突然何が起こるか分かったものではないという不安とワクワク感があり、先を読むのが楽しみになっている。というわけで、また次巻紹介で。
劇光仮面
これは星をつなぐ者たちの物語である。僕は何者でもない。僕は器に過ぎない。――それこそが僕の強さだ。そんな想いを胸に秘め、29歳の青年、実相寺二矢はアルバイトで日々を暮らす。舞台は「現代」、テーマは「特撮」、主人公は“何者にもあらず”!?!?『シグルイ』『覚悟のススメ』の鬼才、完全新境地の最新作!
我々は山口貴由の本当の才能をまだ知らなかった。
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✅ 劇光仮面【2巻あらすじ・ネタバレ】特美研の現在に至るまでの過去が明かされていく!?
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