ミステリー作家・乙一のアンソロジー小説『メアリー・スーを殺して』に収録されている同名の短編を単行本ちょうど一冊でコミカライズしたものである。
当然ながら、ミステリー作品のミステリーとしてのネタに関するバレを含むので、最初に警告しておく。警告おわり。
漫画「山羊座の友人」あらすじ
主人公はユウヤという高校生。普通の高校生であるが、通っている共学の高校はわりと荒れていて、かなり暴力的ないじめとかそういったものもある(ユウヤは加害/被害どちらの立場からも直接は関わっていないが)。
そのいじめられている少年というのがナオトである。いじめているのは金城という不良。
ある日、コンビニの帰り、ユウヤはナオトに声を掛けられた。ナオトは血と脳漿(のうしょう)にまみれたバットを持っていて、今金城を殴り殺してきたところでさ、と軽い感じに語った。
漫画「山羊座の友人」ネタバレ
ユウヤは見かねて、ほっといたらそのまま自殺でもしかねない雰囲気のナオトを自宅に匿うことにする。それもやがて限界が生じ、二人はついに逃避行を決行する。東京へ逃げるのだ。殺人事件が起こっている状況で容疑者の周囲の子供が失踪などしたら一発で怪しまれるに決まっており、実際テレビで報道されるなどしていちやく二人して有名になってしまうのだが…。
ナオトは「そろそろ自首する」と言い出し……。
ところで説明していない重要な設定が二つばかりあった。主人公ユウヤであるが、その家のベランダに、不思議なものが落ちてくることがあるのである。
いろんなものがあるらしいが、重要なのは「未来の日付の新聞」。金城が殴り殺され、その「犯人」が警察の取り調べ中に自殺する、その日付は5月1日である、ということを、実はユウヤはあらかじめ知っていた。そこでナオトが自殺しないように、なんとか5月1日より先まで逃げ回ろうとしていたのだ。
ところで不思議なベランダの存在と、未来の日付の「事件」のことを知っている人間がもう一人いる。クラスメイトの少女、本庄さんである。
さて、筆者は筋道立てて推理をするわけではなくネタばらしをする立場であるので、ネタをばらす。
「自首する」と言っているナオトだが、実は犯人ではない。殺すつもりはあったらしいが、彼が殺す前に金城は既に死んでいたのである。
真犯人は、本庄さんであった。動機は、金城が過去に起こした事件(詳細は語られないのでよく分からない)の被害者の復讐のためであったらしい。
5月1日、本庄さんは警察の取り調べで自分が犯人である事実を打ち明け、そして自殺した。その事実はもちろん新聞に載った。ベランダに落ちてきた手紙とまったく同じ形で。
本庄さんを庇おうとして庇い切れなかったナオトであるが、その後は落ち着いて、ナオトと友人関係を築くのであった。後味は悪いが、ミステリとしては綺麗にまとまってこれで終わり。
漫画「山羊座の友人」感想
実は筆者は乙一がミステリー作家だということすら知らないにわか読者なので、はじめロードムービーみたいなものだと思って読み始めたのである。
いじめっ子を殺した少年と、なんとなくその彼と友情に目覚めた少年の、ブロマンス的逃避行みたいな。あるじゃないですかそういうジャンルって。
まあ途中までは実際ロードムービー的に話は進んでいくわけなのだが、ミステリ方面に舵を切り始めてからの展開は迫真で、ぐいぐいと読み手である筆者を引きこんで離さぬ筆致であった。
ミステリはアガサ・クリスティくらいしか読まないというのが正直なところなのだが、一流の書き手というのはやっぱり違うなあというのが気付かされたところである。
山羊座の友人
松田ユウヤはある夜、同級生の若槻ナオトが殺人を犯した現場に遭遇する。陰惨ないじめの標的になっていた若槻は、追い詰められ相手を殺してしまったのだった。今までいじめを見て見ぬふりをしてきた罪悪感から、ユウヤは彼と逃げる決意をするが!? 少年二人の逃避行の果てに待つ、衝撃の真実。そしてあまりに切ない結末とは――