前作『バンデット -偽伝太平記-』で鮮烈なデビューを飾り、そして怒涛の打ち切り終了を喰らい、しかし今もカルト的人気を誇る河部真道の新作である。
新作といってももう3巻まで出てるのですが。
漫画「KILLER APE」あらすじ
本作品は前作が歴史ものだったのとはうってかわって、SFである。SFなんだが、「VRでもって歴史上の人物や戦争を再現し、そこで戦う訓練をする(VRだから死んでも死なない)」という筋書きであり、つまり歴史ものを書くのがうまい作者の持ち味がうまい事出る感じになっている。
1巻は何をモデルにしたVR空間かというと、ワーテルローの戦い、敵はナポレオンである。またしょっぱなからゴツいのをブチ込んでくるものだ。流石と言おうか。
漫画「KILLER APE」ネタバレ
SFとしての舞台は2199年の地球。主人公は坂本哲平という、さえない動画配信者(現代でいうYoutuberとかそんな類のやつ)の青年。大学を出てから三年間、延々動画配信だけやって生きていたらしいが、金がなくなったのか何なのか、大手の民間軍事会社WSECに就職した。このWSECという怪しい会社が、歴史上の戦争を再現する訓練用VRなどを開発していたわけである。
なお、就職してそうそう訓練にカメラを持ち込もうとした哲平はこってり怒られ馬鹿にされるが、実は片目が電子義眼なのでそこに隠しカメラを仕込んでおり、今後とも動画配信を続けていくことになる。
細かい部分は飛ばして、ワーテルローの話に移ろう。1815年、ベルギー。フランス軍7万2000対、英国主導の連合軍6万8000。ナポレオンの生涯最後の戦争である。
VRなので多少現実から見るとおかしい部分もある(アジア人の哲平がヨーロッパにいるのに、仮想空間上の人物たちは気にしないなど)が、痛みは感じるし、空間そのものは超リアルに出来ている。
訓練の内容はいちおう「ナポレオンを殺してこい」という無茶なものなのだが、別に達成しなかったらどうなるというわけではない。過程を経験すること自体が訓練になっているという仕組みである。
WSECの兵士の中に史実上の軍の動きを熟知している者がいたので、哲平は彼の計画に乗ることにする。ナポレオン軍は最終的にはドイツ軍の奇襲に遭って壊滅するのだが、そのタイミングで騎兵に混じってナポレオン本人に肉薄しよう、というのだ。そのための騎兵はちゃんといる。ジェームズ・ハミルトン率いるスコットランドの傭兵騎馬隊、通称「スコッツグレイ」。史実ではハミルトンはワーテルローで戦死しておりたいした活躍はしてないのだが、そこはVR、歴史を捻じ曲げてナポレオンの首を獲りに行ってもらうことになる。
で、ナポレオンの前にまで近づくのだが、とうぜん大軍が布陣している。常識的には近づけるわけがないのだが、ナポレオンは何故か自分の前の部隊に道を開けさせ、スコッツグレイを自分の本陣に向かってわざわざ突撃させた。それも作戦である。単にスコッツグレイを布陣の中に突撃させると大きな被害が出るが、まっすぐに本陣に向かってくれればそこを大砲で狙い撃つだけで済むからだ。
というような話を、たまたま生きていた哲平はナポレオンから直接インタビューすることに成功するのである。
といったところで哲平は後ろから銃剣で突かれ、苦しみもがきながら死に、VR空間から現実に戻った。といったところで一巻はおしまい。
漫画「KILLER APE」感想
いかんせん台詞ばかりが長くなるのでネタバレでは端折らせてもらったが、ハミルトンとナポレオンのそれぞれ語る戦争哲学が実に面白い。こういう外連味(けれんみ)を描かせるとやはりこの作者は一級だな、と思う次第である。
では、引き続き3巻までご紹介していこう。
KILLER APE
人工知能が極度に発達した22世紀末。突如、謎の飛行体「GAYLA(ゲイラ)」によってすべてのAIが停止した。人間の兵士すら一人もいない世界で、戦争勃発の危機を予知した大企業は、兵士の養成を決意。主人公・坂本哲平は「人が人を殺す」技術を学ぶために、歴史の中の戦場に飛ばされる。ミッションは「ナポレオンとの決戦」!? 『バンデット』の河部真道が放つ、驚天動地のSFバトルアクション開幕!!