極楽長屋【ネタバレ】鬼才の片鱗が伺える崗田屋愉一の初期作品オムニバス集!

極楽長屋

この作者は『口入屋兇次』以来、一年ほどぶりの御紹介である。なお、ペンネームが変わっているが、岡田屋鉄蔵=崗田屋愉一(同一人物)なのでお気になさらず。

なお、紹介はあとさきになったが、この『極楽長屋』の方が『口入屋兇次』より古い作品である。

極楽長屋【あらすじ】

極楽長屋

いわゆるオムニバス形式で、極楽長屋なるところを主な舞台として、二本の時代劇中編が収録されている。

極楽長屋【ネタバレ】

極楽長屋

盗人指南

舞台は江戸、ある夏。鼠の勇五郎、と呼ばれた盗賊一味が捕らえられ、その中のひとり義輔(ぎすけ)という壮年の男も役人の縄にかかった。義輔の息子は義一(ぎいち)と言って、堅気の大工であったが、義輔はむかし凄腕の錠前破りとして鼠一味に属していた身であり、最後に一回だけということで仕事に協力したところそれが発覚したのである。

盗人の子ということが発覚したためにそれまでの住処にもいられなくなった義一は、極楽長屋というところで暮らすことになる。治安の悪い場所にある、ぼろぼろの長屋であった。六助(ろくすけ)という大男と、その女房だというのだが老婆にしか見えない一蝶という女、その二人が顔役をやっている。

さて、大工の仕事も石もて追われて出来なくなった義一は、これまで自分が大工として建てた家の図面を書き起こし始めた。超人的な記憶力の持ち主なのである。その情報をもとに、彼は盗人のまねごとを始めた。しかし、商家に忍び込んでみると、そこは「夜揚羽」と名乗る怪盗が既に仕事をした後であった。

それでも同じことを何度も繰り返した義一、ついにへまをして捕まりそうになったところ、夜揚羽と名乗る女盗賊に救われる。夜揚羽の正体は、一蝶であった。彼女は「気功術」なるものを操って、姿を変えられるのである。

さて、実は鼠という一味は夜揚羽のかつての教え子であったらしい。むかしは義賊だったのだが、やがて代替わりして兇賊になり果てた。で、義輔は足を洗っていたのだが、昔馴染みに頼まれて最後の仕事をしたというわけだったのだ。

それを知った義一は、盗人になることをやめ、堅気として生きていく決意をし、島流しになる義輔を見送って涙するのであった。

怪童子と熊

義一も登場するが、今回の主役は金太郎太夫というおかまの芸人と、熊谷晋之介という同心。金太郎は熊谷に懸想しているが、熊谷にはそういう趣味はない。

さて、江戸でこのごろ火事が続くのだが、どうもそれらの事件はただの火事ではなく、熊谷の関係者を狙った、つまり熊谷に怨恨を持つものの犯行であるらしいと彼は睨んでいる。

同心の身であるので、縄にかけてきた悪党の数は知れない。そのうちの誰かが犯人ではないかとにらんだ熊谷は捜査を続けるが、なかなかはかばかしくない。

結論からいえば、犯人はどっかの大名家のボンボン息子であるらしい。むかし、町娘をてごめにしようとしていたのを熊谷に邪魔されて、それを逆恨みしたのだ。

熊谷はそのボンボンの部下に拉致され、殺されそうになる。ボンボンは金太郎まで殺そうとし、熊谷の偽筆で手紙を送った。だが、一蝶が不審に気付き、結局金太郎と一蝶が熊谷を助け出し、一蝶が大名家に姿を現してボンボンを寺に入れるように「命令し」、一件落着となるのであった。

極楽長屋【感想】

極楽長屋

このシリーズは、掲載媒体が廃されてしまったので宙ぶらりんになったままになっているものであるらしい。一蝶の正体というか何者なのかが謎なのだが、それを説明する機会はないまま今日まで来てしまっているようだ。

初期作品らしい粗削りさも感じるが、しかしのちの崗田屋愉一の鬼才の片鱗が既に伺える、なかなかの力作であった。


極楽長屋

極楽長屋

原作・著者崗田屋愉一
価格825円(税込)

EDO IS BURNING!!独特(?)な人々が住まう江戸の吹き溜まり「極楽長屋」。そこに集まる者は得てして脛に疵持つ者ばかり――謎多きボロ長屋にて繰り広げられるスリルと感動が同居した悲喜こもごものドラマとは!?

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