ちょっと一風変わったルポルタージュ漫画、『戦争は女の顔をしていない』2巻である。
戦争は女の顔をしていない【2巻】あらすじ
前巻と同様、「第二次世界大戦における独ソ戦の、ソ連側の、それも女性の証言ばかりを集めたルポルタージュ」という基本は変わらないのだが、ちょっと2巻になって構成面で変わった部分がある。
1巻でも登場していなかったわけではないが、ほぼ全編にわたって原作者スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチが作中に顔を出し、彼女が取材をしたり独白をしたりしている構成で作品が進んでいくのである。まあ、本質は変わらないが。
本巻には第八話から第十二話の前編までが収録されているが、第九話は前後編、そして第十一話に至っては前中後編の構成となっており、ページ数でいえば圧倒的に長い。
戦争は女の顔をしていない【2巻】ネタバレ
第八話
冒頭から、原作者が登場してくる。1978年から1985年にかけての執筆日誌すなわち取材記録をもとにしたものなのだが、自分がなぜ独ソ戦というテーマに向かい合うことにしたのか、それが自分にとってどういう意味を持つのかについて語られている。
「人間は戦争の大きさを越えている。戦争という事実だけではなく、人が生きるとは死ぬとはどういうことなのか、その真実を書かなければならない」というのがこの作品(原作)を貫くテーマなのだそうだ。
第九話
七十五のキルスコアを持ち、十一回表彰されそして戦後に生き延びた女性狙撃兵に、原作者が取材に行く。当然老婆になっているのだが、はじめ語り出す口が重い。「あそこに戻りたくない」と言うのである。
彼女が17歳のとき戦争がはじまり、自ら志願して軍に入った。そして訓練を受け、ついにドイツ兵の前に立つことになるのだが、その時初めて「相手も人間なのだ」という思いにとらわれ、しかしそれでも引き金を引く……。重い告白である。
第十話
この話は掌編で、原作者の独白と、名もなき人々との対話が綴られている。戦争が終わってから今ほど時が流れてはいない時期に取材が行われたということもあり、取材相手に困ることはなかったそうだ。むしろ逆で、多すぎて困った。やみくもにインタビューしていてはきりがない。何らかの基準を設け、選別しなければならない。女性だけをテーマにしたのもその一環ではあろう。
第十一話
ニーナという、「プロホロフカの戦車戦に参加した戦車部隊の衛星指導員」の告白を聞く長い話。プロホロフカの戦車戦と言われても並みの日本人には何のこっちゃやらだが、なんかすごい激戦を潜り抜けた猛者、というニュアンスらしい。日本人の感覚でいえば戦艦大和の最後の出撃とか、硫黄島の玉砕戦みたいなものであろうか。
さて、彼女も志願兵だが、戦車兵を救護する衛生兵というのはちょっと特殊で、簡単になれるようなものではないらしい。実際、志願ははねられた。だが、彼女は車に忍び込んで前線に行き、追い返されそうになっても迎えの車から逃げ回り、とうとう現場に居つくことに成功した。そこからの物語は凄惨の一語に尽きる。
第十二話
前編と銘打ってあるので、3巻に続くのであろうが、ベラルーシの、ドイツ軍に占領された地域の人々に取材する話。統治はとても過酷であったようだ。
戦争は女の顔をしていない【2巻】感想
いまの日本の戦争教育というのがどうなっているのかは知らないが、筆者は祖父の世代が戦争に行っているくらいの時代の生まれなので、それなりに戦争について知らされてはいる。だが、端的に言えば日本は敗戦国、ソ連は勝利国である。
だが、国が戦争に勝っても、一発の弾丸で人間は死ぬ。そういう事実をずーんと突き付けてくるような作品だ。
とても深く、ちょっと簡単に説明などできそうもない。とはいえ漫画になっているだけあって読みやすくはあるので(描写はまあまあハードですが)、作品としてはぜひお薦めしたいところである。
戦争は女の顔をしていない
「一言で言えば、ここに書かれているのはあの戦争ではない」……500人以上の従軍女性を取材し、その内容から出版を拒否され続けた、ノーベル文学賞受賞作家の主著。『狼と香辛料』小梅けいとによるコミカライズ。
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