とらドラ!(3)
著者 竹宮ゆゆこ / 絶叫 / ヤス
雑誌 電撃コミックス
出版社 KADOKAWA
ジャンル 青年漫画
とらドラ!【第3巻】あらすじ
三巻だ。この巻の主役は、転校生・亜美ちゃんこと川嶋亜美である。
職業モデル、天使のような美少女。……のふりをした、わがままお嬢様系ギャル。あと、北村の幼馴染である。恋愛関係ではまったくないのだが、北村は北村なりに亜美のことを心配していて、友達を作らせようとする。それも、ぶりっ子モードで付き合う友達ではなく、亜美の本性を知った上で付き合ってくれる友達を、だ。
そのための人材として選ばれたのが、大河である。ある種同族嫌悪じゃないかという気もするが、性悪お嬢様系とツンデレ凶暴美少女は、いきなり険悪になる。物理的に手が出るレベルで。
しかし多分、これさえ北村の仕込みである。ここから始めないと、本性を知った上での友達というのは、作れないだろうから。北村というキャラクターは、表面的には真面目眼鏡野郎に見えるのだが、割とやることが奥深く黒い。
ちなみに竜児は、亜美ちゃんの本性を見せられてドン引きし、以後、一切亜美を異性として意識することはなくなる。それがまた一つの哀しいすれ違いを生むのだが、それは後の話だ。
さて。この巻の主役はもう一人いる。
亜美のストーカーである。
亜美が変な時期に転校してきたのは、ストーカーから逃げるためであった。ストーカーに付きまとわれるストレスから、やけ食いに走っているところを大河に見つかり、のちほど衆人環視の中でおなかの肉をつままれて悲鳴をあげる、などという一幕もある。
ストーカー問題は、割とあっけなく、この巻限りでカタがつく。凶暴美少女・大河は、ストーカー野郎のことが亜美への感情とは無関係に気に食わなかったので、物理的な攻撃を加える挙に出た。それを見た亜美は大河を見直す。「あの子、すごい」と言って。
で、亜美ちゃんもストーカーに物理的攻撃を加える。ストーカーは悲鳴を上げる。
「どうして!亜美ちゃんは天使だと思ってたのに!性格悪っ!」
ここで亜美の名台詞が炸裂する。般若のような鬼相を一瞬でぶりっ子笑顔に切り替えて…
「それがどうしたのよ?亜美ちゃんこんなに可愛いんだもん 性格なんてどーでもいいの☆」
ストーカーに脅かされていたか弱い少女が、精神的自立を遂げた瞬間であった。ちなみにストーカーはこれっきり出てきません。
2巻はこちら
とらドラ!【第3巻】ネタバレ
この巻ではさりげなく数コマ、脇役っぽく姿を見せているだけだが、生徒会長・狩野すみれが初登場する。えらい美人で、かつ漢らしいガラッパチなお嬢さんである。何をかくそうこの人こそが北村の想い人であるわけだが、それは先の話になるので置いておく。
さて、吹っ切れた亜美ちゃん、大河を見直すと同時に、自分の本性を見ても自分への態度を変えない竜児に対しても、関心を示すようになる。というか、アプローチを始める。第三のヒロイン登場……と言いたいところなのだが、竜児の方に最初から最後までまったくその気がないので、ヒロインとして成立しないという哀れな立ち位置になる。
だが、亜美ちゃん、この頃はまだ、自分ほどの美少女がそうまで無残に袖にされるとは夢にも思っておらぬから、冗談っぽく、竜児に迫る。
キスまで数センチ、という距離で…
「あなたは、本当のわたしを、好きになってくれる?……なーんてね、冗談」
とやっているところを、大河が目撃する。
ここからの大河の反応は複雑である。
「竜児は私のよ!触るんじゃないわ!……とでも言うと思った?好きにしたら、盛りのついた犬同士」
とか、口では言うのだが、あからさまにヤキモチを焼いて怒る。だが、怒ってるという事実を自分で認めたくないので、「怒るなよ」と言われるともっと怒るし、「悪かった」と言われても怒る。手の付けようがないのである。
大河はまだ、竜児に対する自分の感情に、名前を付けることができないのだ。だから、自分自身でもそれが何なのか分からず、戸惑っているのである。しかしその戸惑いは怒りとして表層化されるので、周囲はたまったものではない。
逢坂大河はライトノベルの歴史においてツンデレキャラクターの金字塔的存在であるが、その比率はツンが九割にデレが一割くらいである。ツンツンツンツンツンツンツンツンツンデレだ。
まあ、そんなこんなのあたりで、次巻へと続く。
とらドラ!【第3巻】感想
とにかく、絶叫の絵のうまさ、特に人物の描き方のうまさが光る巻である。
亜美ちゃんの表の顔と本性の描きわけ、ふっ切れてからの亜美の変容(ストーカー事件を乗り越えた後の亜美ちゃんは、表と裏の顔を統合させ、女王様系ぶりっ子へと進化を遂げる)、亜美が竜児に迫るところを目撃してしまった瞬間の大河の表情、キレ描写、やきもちの焼き方、すべて、完璧に「絵で魅せて」くる。このコミカライズは、「成功」している。
ライトノベルのコミカライズなんてものは世の中に掃いて捨てるほどあるが、こんなに「文章を、漫画に変換する」という作業を、効果的に成している作品は、そうありはしまい。
筆が遅くて完結まで時間がかかる、という点については毎巻同じことを言っていては際限がないのでもう触れない。絶叫は、描けば描くほどうまくなっていく。その進化も、このコミカライズシリーズの楽しみの一つである。原作は完結しているわけだから先のストーリーは全部知っているのだが、その上で、「あのシーンを、このシーンを、絶叫先生はどういう風に描いてくれるだろう」と、期待は高まっていくばかりなのだ。
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