「単行本一冊で完結する傑作漫画」というのはわが国の出版事情のもとでは当今そうあるものではない。しかし、本作品はその一つである。
だいらんど【あらすじ】
主人公・正（まさ）は36歳の冴えないチンピラヤクザ。
ある日、親分から「足を洗うか、鉄砲玉をやるかどっちかにしろ」と言われ、覚悟を決めて鉄砲玉をやることにする。で、銃を持ってターゲットを射殺しようとするのだが、滑って転んで大ピンチに陥る。まさに殺されようとしたそのとき、彼は気が付いたら見知らぬメルヘン世界にいた。
ここは天国か、俺は死んだのか、と思う正であったが、どうも違うらしい。ここは「だいらんど」であるという。だいらんどとは何なのか？それを解き明かすための、正の冒険が始まる。
だいらんど【ネタバレ】
たった一冊にすべてが収まっている都合上密度の高い作品であるため、ストーリーを忠実に追っていくときりがないので、ざっくりとネタバレをしていこう。
まず、だいらんどは昨今ありがちな（この作品は二十数年前に描かれたものではあるが）中世ヨーロッパ風異世界ではない。そもそも、惑星ですらない。異世界というより、亜空間のような感じである。六面体の、箱のような形の世界の各面に、六つの国が存在する。
つまり「DIE-LAND」、サイコロの世界、なのである。DIEは英語でサイコロを意味する（DIEは単数形で、DICEが複数形）。
正はこの六つの世界を順繰りに冒険していくわけであるが、全部は説明しない。ただ、最初は昼の国である。王様と姫がいる。姫はメリーアン姫と名乗る。いちおう女性のような姿、女性のような喋り方であるが、人間と言うよりぬいぐるみに近く、服を脱がせても何もついていない。このだいらんどには性というものはないのである。
ただし、年齢を聞くと「22歳」と、この部分だけ一瞬細かいリアリティのある台詞が出る。初読のときは正直気が付かなかったが、これは重要な伏線になっている。
正はなぜかメリーアンと「結婚」することになり（しても何も起こらないのだが）、メリーアンを連れてだいらんどを探検する。四つの国を通過して、最後に辿り着くのが「夜の国」である。そこには「夜の王」がいるとされている。
間の説明は飛ばすが、メルヘンチックであるがどこかグロテスクな国々を渡り歩いて、いつしか正はメリーアンと心を通わせるようになる。
最後に辿り着いた夜の国は、忘却の世界であった。ここに辿り着いた旅人のほとんどは、自分が何者であったかすら忘れてしまう。
結局、夜の王なんてものは実在しなかった。夜の王と呼ばれていた存在はハリボテの人形であり、この世界の支配者は「ジャック」と名乗るピエロのようなぬいぐるみの姿をした存在。
ここからは作品の核心に触れるネタバレとなる。
だいらんどの正体は、「現実世界で非業の死を遂げた人間たちの、死の直前の意識が集められた世界」である。
正がそうであるように、メリーアンも実は人間で、もとは本物のお姫様（とある国のプリンセス）であった。暗殺事件に巻き込まれ、だいらんどにやってきたのである。ただし、いつの時代の人だったのか、ということは正には分からない。
正はだいらんどに永住する権利を与えられたが、それを拒否して現実世界に戻る道を選ぶ。
奇跡的に、命は助かった。
次は、「22歳の誕生日に死んだお姫様」がいつの時代の人間だったのかを、現実世界で調べることになる。ところがいくら歴史を調べても該当者がいない。実は、メリーアンは正と同時代、わずかに年下の人間だったのである。メリーアンが暗殺されそうになった直前、チンピラヤクザの姿で、正は犯人をノックアウトした。
メリーアンは、彼の事を覚えていた。めでたしめでたし。
だいらんど【感想】
多くは語るまい。ただ、値段分の価値くらいは十分にあることを保証しよう。というわけで、紹介の筆を置かせていただく。
だいらんど
敵対勢力の要人暗殺に失敗し、夜の街を逃走していた冴えない中年ヤクザ・正。追っ手に囲まれて絶体絶命の大ピンチ！だったはずが、気づけばメルヘンな異世界『だいらんど』に迷い込んでいた！！怒りも憎しみもセックスもない不思議な世界。正は裏でこの様子を見て笑ってる奴がいると確信し、自分をこの世界に連れてきた「夜の王様」に会いに行くことに…。おとぎの国のメリーアン姫と謎のピアロを従え、正の脱走劇が始まった！！
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