町田洋という作家のデビュー作、短編集『惑星9の休日』をご紹介する。一巻完結である。
惑星9の休日【あらすじ】
本作は、惑星9なる星を舞台に繰り広げられる8つのSF短編からなるオムニバス作品集である。
舞台が共通であること以外はストーリー上の連作的なつながりなどは見受けられないので、個別に紹介していこう。
惑星9の休日【ネタバレ&感想】
惑星9の休日
いわゆる表題作。惑星9が辺境の小さな星で、「恒星への公転に対し垂直に自転している」ことが説明される。つまり、北極は年中極夜(白夜の対義語)、作中では「永久影」と呼ばれる状態にある。
北極に大きな穴があり、そこに凍り付いた古い町の遺跡がある。どういうきっかけがあったのか、存在していた町が一瞬にして凍り付いたらしく、人間の姿もそのままである。
たまにその人間を気に入り、発掘する奴があるが、日に当たるとそれは砂になってしまう。
主人公の青年もまた、遺跡の中に眠る一人の少女を気に入り、足しげく永久影に通っている。その青年に恋する少女が一人いて、眠る少女の遠い子孫なのだという。
ある日、惑星9に隕石が落ちた。それにより地軸の傾きが少し変わり、日が差して、永久影の中の町はすべて砂になってしまった。少女はそれを見て「私が嫉妬したからだ」と泣くのだが、少女の告白を受けた青年は、なんかいい感じの台詞を言っていい感じに話をしめる。
UTOPIA
映画のフィルムを保管している倉庫での話。そこに貴重な古い作品のフィルムがあるという情報を掴んだ強盗が襲撃してくるのだが……。結局、あったのは貴重な作品のフィルムの空容器だけであった。その作品は『ユートピア』という。
玉虫色の男
玉虫色の、異星人みたいな人間が出てくる夢を見る男の話。正直、いまいちよく分からない話であった。
衛星の夜
収録作品の中で筆者が一番好きな話。惑星9には月がある。たいした意味がある星ではないのだが、一度だけ有人探査が試みられたことがあった。主人公の老人はそのときに飛行士だったのだが、月のクラック(割れ目)にはまり、死にかけた。ところがそこに、一体の粘菌が現れた。生き物などいないと思われていた星だが、この一体だけいたのである。
その粘菌は、主人公に触れて記憶や感情を読み取り、人間の姿を取った。本人の言によればひとりでこの星に生まれて長い長い時間を生きており(不老不死らしい)、孤独だったから誰かと友達になりたかったらしい。
飛行士は粘菌にワルツという名を付けたが、この星以外では生きられないと自ら語るワルツを連れて帰ろうとすることはせず、また誰にもワルツの話はしなかった。そうして、ワルツはまた孤独になった。いつの日か、自分と同じ永遠を生きる存在と出会えるその日まで。
それはどこかへ行った
売れない芸術家の未亡人である、煙草好きな女性に恋する科学者の青年の話。青年は天才的な発明者なのだが、恋には奥手である。たまたま一目惚れした彼女に声をかけるまで三カ月かかったらしい。時間をかけてどうにか言葉を交わす関係にはなり、なんやかんやでハッピーエンドっぽく終わる。
とある散歩者の夢想
随想のような謎めいた作品。正直これもよく分からなかった。
午後二時、横断歩道の上で
停電。社長が電動のドアに挟まれて動けなくなった。電気が復旧するまで助けられそうもない。主人公の青年と社長に雇われている少女は、停電で溶けるからと言ってアイスクリームを食べる。なんというか、あまりストーリー的なものはないのだが雰囲気は好き。
灯
この作品だけ時間軸がだいぶ後らしく、惑星9の衰退した後、9を久しぶりに訪れた出身者(現在は売れっ子女優)の帰郷が描かれる。まさに「惑星9の休日」である。
惑星9の休日の書籍情報
惑星9の休日
町田洋、描き下ろしデビュー辺境の小さな星、惑星9に暮らす人々のささやかな日常と、少しのドラマ。凍り付いた美少女に思いを馳せる男。幻の映画フィルムにまつわる小さな事件。月が惑星9を離れる日。愚直な天才科学者の恋……。風にのって遠くからやってきた、涼しげな8つの物語。
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