岡田屋鉄蔵(現在のペンネームは崗田屋愉一)によるハードボイルド時代劇、『口入屋兇次』を御紹介する。
2015年前後に描かれた作品で、全3巻。
口入屋兇次【1巻あらすじ】
まず、口入屋(くちいれや)という言葉についてだが、江戸時代に用いられていた人材斡旋業者のことである。
タイトルからわかるように、主人公は兇次という口入屋。それぞれ色々な専門の能力を持った何人かの仲間がいて、表では実際に人材斡旋の仕事、そして裏では法が裁けぬ悪を闇から闇へと葬る必殺仕事人みたいな仕事をしている。
『口入屋兇次』第1巻は「夜鷹の秘め事」という全7話のエピソードからなり、ちょうどその幕引きとともに2巻へ続く、となっている。
口入屋兇次【1巻ネタバレ】
ある日、夜鷹たちが客を引く場所に素人の女が客を取ろうと現れた。縄張りというものがあるので、シマ荒らしとして袋叩きの目に遭うのだが、そこに三筋(みすじ)という、兇次の仲間の一人が通りかかる。
女は三筋によって兇次に紹介された。名は高坂絹(こうさか きぬ)と言い、大金を必要としているという。
色街で生まれ育ち、男女関係と色事については右に出るものがない三筋が絹の「その道での商品価値」や適性などを改めたのだが、結論としては娼婦は「向いていない」。だが、絹はもともと大店の商家の娘であるので、読み書きと算盤(そろばん)なら筋がいい。そこで、兇次は絹に、経営の傾いた女郎屋を紹介する。その腕でこの店の経営を立て直してみせろ、それに成功したら報酬は思いのままだ、というわけである。
ちなみに絹が大金を必要としている理由だが、彼女には数馬という夫がいる。いまは浪人しているのだがもともとはれっきとした侍で、喧嘩沙汰で役を解かれた身である。その数馬に再仕官の話が舞い込んでおり、再仕官の口を利いてもらうために百両の賄賂が必要なのだという。それが絹が大金を必要としている理由である。
さて、絹の手腕は見事なもので、女郎屋の経営立て直しは見事に成功し、絹は兇次が予想していたよりも早く必要としていた金を手にした。ところが、ここで兇次が「まずいな」という顔をする。仲間の一人が不審に思って聞くと、「数馬の仕官話について調べているが、時間が足りなくて話の裏取りが終わっていない」のだという。
別に兇次は数馬から何かを依頼されているわけではない。面倒を見る筋合いまでは無いだろうと仲間は言うのだが、兇次は割と世話焼きの性分なので気になるのだという。
さて、果たして数馬は無残な変死体となって発見された。後ろから頭を殴られ、倒れたところを野犬に食い殺されたのだという。顔も分からない状態だったが、絹が確かに数馬であると確認した。兇次たちの「口入屋」としての表の仕事は既に終わっているので、ここからは裏の仕事である。結局、仕官の話というのは実は嘘っぱちで、その話を持ち掛けてきた二人の、博打狂いの侍が数馬を殺した下手人であるということが判明する。
兇次は仲間の一人である四狼坊(しろうぼう)という山犬使いの僧を呼び、暗夜の中で二人を抹殺した。そして一部始終を絹に告げた。
絹は「数馬との間の子として」養子を取り、経営再建の手腕をその後も振るい続けたという後日談が語られ、とりあえず1巻の「夜鷹の秘め事」の話はこれで終わりである。
口入屋兇次【1巻の感想】
はじめて読んだのはずいぶん昔なのだが、とても好きなシリーズである。時代劇で、剣の達人が出てきて、悪人を誅殺して、というお約束を踏んではいるのだが、表の仕事ぶりだとか、とても地に足の着いた感じが好きなのだ。
この1巻だけを読んでもとりあえず綺麗にまとまっている作品ではあるので、最後の3巻までこのまま紹介していくので、よろしくお付き合いいただきたい。
口入屋兇次
江戸の町で職業斡旋を生業とする口入屋兇次。兇次の元には、職を求める様々な人間が転がり込む。ある夜更け、町外れの河原で一人の女が夜鷹に身を堕とそうとしていた…。江戸の人々の生き様を描く時代叙情詩開幕!!