『蝴蝶酒店(ホテル・ウーデップ)奇譚』。かつて好評を博した板倉梓の初期作品をまとめた、電子書籍版のみで刊行されている単行本である。
蝴蝶酒店奇譚【あらすじ】
アジアのどこかにある、歌賦都市(ゴーフーシティ)という大都会の片隅。その街でもっとも古いホテルとして、蝴蝶酒店(ホテル・ウーデップ)は営業されている。古いので、全体的に汚くてボロい。オーナーはプイプイという、外見は幼女だが自称百十三歳の謎の人物。
主人公はライという、田舎から出てきてこのホテルでフロント兼雑用として働いている青年。基本的に各話完結の物語なので、あとはネタバレに進もう。なお、収録作品数が多いので全部は紹介しない。抜き書きである。
蝴蝶酒店奇譚【ネタバレ】
蝴蝶酒店の蝶蝶
その日ホテルにやってきたのは、顔にぐるぐると包帯を巻いた、しかし艶めかしい雰囲気をまとった美女。ライの知り合いであるらしいのだが、ライは相手が誰だか分からない。結局、ライがその「美女」と一夜を共にした後に、それは整形手術で顔を変えた幼馴染だったということが判明するのだが……。
蝴蝶酒店の花嫁
数十年前に映画スターだったという老人がホテルにやってくる。なんでも、プイプイの幼馴染で、このホテルを建てた張本人なのであるという。老人はまもなく世を去り、置いていった肩身の品の映画フィルムを観て、プイプイは涙を流すのだった。
蝴蝶酒店の春祭
春の訪れを祝う「春祭」の季節がやってきた。ライの故郷ではこの祭りの際に金柑のハチミツ煮を作る風習があるのだが、ライが探してもゴーフーシティではどこにも売っていない。そんなおり、ホテルにやってきた少女の客が、たまたま金柑煮を持っていた。どうやらライと同郷であるらしいのだが、この少女が実はひそかにホテルの部屋で娼婦をやって客を取っていたことが明らかになり、ライは心を鬼にして少女を追い出すことになる。
蝴蝶酒店へようこそ
今回やってきたのは一人の若い女性の客。ホテルの質の悪さにたいして文句たらたらなのだが、なんと部屋に死体らしきものが転がっているのを見つけてしまう。だが、それはホテル側のいたずらで実際には死体ではなく、ホテルガイドの新人調査員を脅かすための悪戯であった。
真夏の夜の香
これはホテル・ウーデップが舞台ではなく、ライが帰郷する話。幼馴染であるという少女(「蝴蝶酒店の蝶蝶」のキャラクターとは別人)に出会ったライは、魅了されるように肌を合わせそうになったのだが……実は彼女は幻のような存在であり、ライがかつて好きだった絵画に描かれた女性だったのであった。
賭博師マンナ
ホテルに一人の若い少女がやってきた。若い少女なのだが、職業は賭博師であるという。プロの麻雀打ちなのだ。だが、彼女が部屋代を踏み倒す気でいたのを知ったプイプイは、幻を見せる薬を使って、マフィア相手の博打に大負けしてボロボロの体にされてしまった自分という幻覚を見せ、マンナを怯えさせて賭博から足を洗わせるのであった。
蝴蝶酒店奇譚【感想】
この作品は板倉梓の(多分)商業デビュー作であり、筆者にとって初めて触れたこの作者の作品でもある。
『タオの城』の紹介をしたときにも説明したが、このホテル・ウーデップシリーズこそは、怪しげなスラムとそこでたくましく生きる人々という、板倉梓の一つの作品群の元祖なのである。
いろいろ事情があって商業単行本化されるのが遅かったので紹介するのもこの通り遅くなりはしたが、久しぶりにこの作品を読めて筆者としては感慨無量であった。
なお、個人的に一番好きなのは「蝴蝶酒店の春祭」という作品である。この作品で板倉梓のファンになったようなものでもあったりするし。
蝴蝶酒店奇譚
自称100歳!?の幼女がオーナーの不思議なホテル。やってくるのは妖艶な包帯美女やワケアリな方言少女、ギャンブル好きギャルなど一癖も二癖もあるお客様ばかり!混沌なアジアの大都会にあるホテルを舞台にしたちょっと不気味、時々ほっこり、少し切ないオムニバス。
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