新作『クレイジー・キッチン』をご紹介する。この作品、誕生の背景を説明すると長いのだが、とりあえず「ラノベ原作(現行2巻まで)のコミカライズ」である。この説明で嘘はない。
クレイジー・キッチン【1巻】あらすじ

本作品は日野洋二という三十路の男が経営する「ひだるまキッチン」という小さな洋食屋と、それをとりまく客たちの、ちょっとクレイジーな日常を描いたコメディだ。
端的にどういう風にクレイジーであるか説明すると、まず冒頭、混雑どきに料理をしている店長洋二のモノローグがこうである。
「俺は今モーレツに腹が減っている 地下鉄の風でスカートがめくれ上がったマリリンモンローがノーパンだった それくらい猛烈だ」
如何であろうか。だいたい全編通してこういうセンスが貫かれている。
クレイジー・キッチン【1巻】ネタバレ

トンカツ定食
導入。トンカツ定食を頼んだ客が「俺より後に頼んだツレの料理が先に来てる!お客様は神様だろ!」と文句を言い出したので、店長が「厨房の神は俺だ」と一喝する、キャラクター紹介をかねたそんなおはなし。
肉まん
ひだるまキッチンは洋食屋だが、基本的に自由なので店長の気まぐれで肉まんのお持ち帰りを始めた。それを女子高生の客(常連二人組)が買っていくのだが、その片方のおっぱいが立派なので「こっちがお持ち帰りしたいくらいだぜ」とか店長がうそぶく。
焼鳥
ウェイトレスのカナさんも上がって閉店直前、客はサラリーマン風の男が一人、というタイミングで、店長が突然「焼鳥って気分だなー」とか言い出す。そしておもむろにシャッターを閉め、閉じ込められた客に強引に自作の焼き鳥を薦め(そういう店なので仕方ない)、あまつさえコンビニにビール買いに行って二人で朝まで酒盛りをする。自由である。
コロッケ
ジェントルマンな老紳士がやってきて、「おすすめは何かね」とか言うので、「全部お薦めだゴルァ」と言いたいのをこらえて店長はコロッケ定食をおすすめする。これがまた絶品なのである。
でっかいショートケーキ
定休日、店長はヒマなので店に来て何故かケーキを焼いていた。カナさんも遊びに来た。店の前を通る常連客たち(狭い町だな)を捕まえては、強引にケーキを渡す店長とカナだった。自由。
焼肉
店長がひとりで焼肉を食っていたら、たまたま通りすがりのカナさんに窓から見つかって、なぜか奢らされた(二人は別に付き合っているとかではない)。たまには店長が料理をしない、そんな話もあるのである。
ハンバーグ
「調理の達人」という人気番組に出ている有名シェフが店にやってきて、番組に出てくれ、と店長を誘う。店長はにべもなく断る。だが「高級料理に挑むのが怖いのか」みたいな挑発をされたので、おもむろにハンバーグを作って、シャッターを閉めてたまたま店内にいた他の客たちを閉じ込め(またやったよこの人)、ハンバーグ大会と相成る。ちなみに、この有名シェフは店長が調理学校にいた頃からの旧友であり、店長のその当時の恋人の兄でもあるという人物である。
クレイジー・キッチン【1巻】感想

どこにもなさそうで実際どこにもない、そんな洋食屋を描いた愉快な作品である。
さて、来歴を語らなければならないが、この作品はもともと「やる夫スレ」であった。やる夫スレというのが何なのかはさすがに紙幅が足りないので説明しないが、伝説的な人気を誇ったやる夫作品の一つ「キッチンやらない-O」がこの作品の本当の原作(小説版のそのまた原作)である。
やる夫スレ初出作品としては商業的にもっとも成功を収めた作品(と思われる)『ゴブリンスレイヤー』のヒットのあと、いくつかの名作やる夫スレがラノベ化された。このクレイジー・キッチンもその一つというわけだ。で、小説版は無事続刊も出て、このたびコミカライズまでされたという運びである。複雑かつ長い歴史があるのである。
作品としての面白さについては、「キッチンやらない-O」以来のファンであるこの筆者が保証しよう。コミカライズということで入門には手頃だと思うので、ぜひ読んでみていただきたい。

クレイジー・キッチン
最高の料理の腕を自負し、自らが作る最高の料理を自分が食べるためだけに使いたい三十路過ぎの洋食屋・洋二。彼の日常は、濃すぎる常連客と従業員や料理仲間たちに囲まれ――なぜこんなことばかり起こる!?
※移動先の電子書籍ストアの検索窓にて『クレイジー・キッチン』と入力して絞り込み検索をかけると素早く作品を表示してくれます。巻版と単話版があるので注意して下さい。