物悲しいの剣客漫画の結末「無頼侍」第3巻のあらすじ・ネタバレ感想

無頼侍(3)
無頼侍(3)
作品名:無頼侍(3)
作者・著者:鈴木マサカズ
出版社:Benjanet
ジャンル:少年漫画

漫画「無頼侍」第3巻のあらすじ

寛壱とその一行は、まず、嵌蛍寺を目指す途上で、とある漁村に立ち寄る。

そこで、蛇山の藍が一行から脱落する。

旅は続く。
一行は、ついに、嵌蛍寺に到達する。そこで、寛壱を待っていたものとは……。

彼らの旅は、ここで終わる。

無頼侍(2)

漫画「無頼侍」第3巻のネタバレ

さて、まず漁村で何があったか、であるが。簡単に言うと藍が死ぬ。漁民たちに襲われそうになったとき、その一人の腕を斬り落とすのだが(藍は女だてらに腕が立つ)、それを逆恨みされ、不意打ちで背中から銛で突かれてしまうのである。

致命傷であった。手当の術すらなかった。なんとかできないのか、身もだえする千代松に、寛壱はにべもなく言う。「どうにもならない 抜くな 苦しみが増すだけだ」。藍はそのまま、命果てる。寛壱に斬られたい、という望みをついにかなえられぬまま。悪党であるとはいえ、なんとなく哀れな最期であった。

なお、下手人の漁民たちは千代松に斬られる。

千代松は単に下心があったというだけの関係ではなく、藍に昔、命を助けられた恩があったとかで、藍に心底からの忠義を抱いていた。弟を失い、主を失い、傷心の千代松であるが、それでも寛壱の旅を最後まで見届ける道を選ぶ。

さて。

嵌蛍寺で、何が待っていたか?
書いてしまえば、一言である。そこで一行を待っていたのは、寛壱の仇だった、溝鼠と名乗っていた男の、しゃれこうべ(髑髏)であった。

寺の住職が、すべてを語る。この男は、旅の果てにこの寺に辿り着いたとき、労咳(結核。江戸時代には、かかったら絶対に助からない死病)を病んでいた。そして、自分の生涯について、すべてを語った。

溝鼠という男の正体は何であったか。これが、この物語の核心なのだが……

別に、何者というわけでもない。彼は、ただの、浮浪者である。彼は、子供の頃、既に親がなく、自分の名を知らなかった。人々は彼を嘲り、「溝鼠」と呼んだ。

ところがある日、一人の少女が、一目で浮浪者だと分かる男に親しげに挨拶をし、名を問うた。

彼ははたと悩んだ。「自分はいったい、何という名であるのか?」いくら考えても、分からなかった。

そこに、少女の兄がやってきた。身なりのいい侍であった。「何だ、お前は」と問う侍(ちなみに、これが過去の寛壱である)と娘に、男は名乗る。「俺は……溝鼠だ」と。

こうして、「溝鼠」は誕生した。

彼は、名無しであった自分を「溝鼠」にした娘を憎んだ。

娘にほんのひとかけらも悪意がなかったことは間違いない。だが、溝鼠、と相手が名乗った時、彼女はその男に恐怖と嫌悪の目を向けた。溝鼠の側にも、そんな目で見られるような落ち度があったか?といえば、別に無い、としか言いようがないのである。すべては、行き違いが産んだ悲劇であった。

溝鼠は、少女と、その親を殺し、ドブネズミ(動物の方のドブネズミ)の死骸を、名刺代わりにその場に残した。こうして、溝鼠は旅に出、寛壱もまた、お尋ね者として流浪の身となった。

溝鼠は、嵌蛍寺の住職に、二つのことを頼んだ。自分を追う寛壱という男がやってきたら、自分の話を伝えること。そしてもう一つは……「自分に、名前をくれ」というものであった。

住職は彼を憐み、寺の名から一文字を取って「蛍蔵」と名付けた。そして、溝鼠、いや蛍蔵は、まもなく死んだ。なんとも、これまた哀しい話である。ちなみに、溝鼠という名の大悪人に関する噂話、彼が旅の途上で実際に為した悪行に基づいたものなのか、それとも彼自身が流した嘘っぱちの作り話であったのかは、結局よく分からないままである。

全てを知った寛壱は、不興げな顔で、住職に問う。

「要するに……俺と妹にも非があった、と、そう言いたいのか」
「そんなことは申しておらぬ」
「言ったも同じだろう……」

それから「ああ、無意味な旅だった」と長嘆し、「この首ももういらぬ お前にやる 好きにしろ」と岩十郎に言い残し、自らの腹に刀を突き立てた。

そして。

千代松は、嵌蛍寺に残り、出家して僧となった。

岩十郎は。手に入れた首を、役所に届け出なかった。届け出れば、百両が手に入るというのに。岩十郎は、その首を、嵌蛍寺に埋葬し、丁重に寛壱の菩提を弔った。

そして、「やっぱもったいなかったかなあ……百両……でも、どうせ博打でスッちまうのが落ちだったような気もするから、これでいいのか……でも百両……」などとうそぶきながら、またあてどもない旅に出るのであった。

漫画「無頼侍」第3巻の感想

筆者は考えたことがある。

もしも。

もしも、この物語に、鈴森岩十郎という主人公がおらず、最初から寛壱だけが主人公だったら、果たしてどんな作品になっていただろうか?

この物語の主人公は「無頼侍」鈴森岩十郎であるのだが、彼はびっくりするほど物語の主筋にまったく絡まない。何か隠された秘密があるわけでもない。活躍もしないし、最後の行動を除いて、重要な役回りを果たすことすらもほぼない。ただの、オッチョコチョイでお人よしの旅浪人である。

だが、もしもこの男が物語の中にいなかったら、この作品は本当に、ただ辛く絶望的なだけの、何の救いもない物語として終わってしまう。寛壱が「なるほど、ならば俺も無頼侍か」と言うシーンもなくなってしまうから、タイトルも無頼侍ではなくなる。「仇討侍」だ。

だが、仇討侍が主人公なのに、仇討ができずに腹を切って終わりでは、救いが無さすぎる。だいたい、寛壱は、切腹するシーンの躊躇いの無さから見て、最初から、仇討ちを遂げ次第腹を切るつもりで旅をしていたものと思われる。道理で、最初から死神に憑かれたような顔をしているはずである。

しかし、岩十郎が存在することで、この作品は初めて「無頼侍」となる。

無頼の賞金首にだって、無頼の侍なりの、友情の形というものがある。油断していたら寝首を掻いてくるかもしれないが、しかし、一部始終を知ったなら、ついうっかりして同情の挙句、百両をふいにしてまで自分の亡骸を弔ってくれるような、友人がだ。

だいたい、この物語の主要登場人物は、だいたいが物悲しい何かを背負っているし、物悲しい末路を辿る。岩十郎だけが例外である。鼻を落とされたりはするが、鼻である、というのがまた滑稽だ。腕を斬り落されたのではこうはいかない。どうにも、しまらない、カッコがつかない男であるのだが、しかし、この男がいないと、この物語はやっぱり、それはそれで「しまらない」のである。

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