漫画「君の瞳に三日月」に収録の「ほとんど以上絶対未満」のあらすじ・ネタバレ感想

君の瞳に三日月
君の瞳に三日月
作品名:君の瞳に三日月
作者・著者:桑田乃梨子
出版社:白泉社
ジャンル:少女マンガ

漫画「君の瞳に三日月」のあらすじ

桑田乃梨子の作品集『君の瞳に三日月』には、表題作の長編「君の瞳に三日月」のほか、中編「ほとんど以上絶対未満」、短編「ウは鵜飼のウ」が収録されている。

「君の瞳に三日月」は、怪しいマッドサイエンティストにおかしな薬を飲まされて猫が近付くと猫になってしまう変身体質になってしまった少年を主人公にした、学園コメディー。「ウは鵜飼のウ」は、仕事のない探偵事務所を舞台にした、しかしほのぼのとした、少女漫画としては異色の作品だ。

さて。筆者が紹介したいのは、もう一本、「ほとんど以上絶対未満」という作品である。中学生のときひょんな偶然から、少年から「女の身体になってしまった」ヒロイン(?)を主役とした、全体にほんのりとしたエロさの漂うラブコメディーである。

漫画「君の瞳に三日月」収録の「ほとんど以上絶対未満」のネタバレ

主人公の藪坂くま(男だった頃の本名は秀。戸籍をいじってある)が、高校2年生の春、中学時代の旧友である瑠璃門皓市がいる高校に転校してくるところから、「ほとんど以上絶対未満」の物語は始まる。

藪坂の外見は、ショートカットのただのかわいい少女である。それが、「ルリカドぉぉぉ!」と絶叫して、その胸元に飛び込んでくる。周囲は騒然、瑠璃門も仰天する。「藪坂くま」と名乗られて、「秀の親戚か?」と問う瑠璃門に、「オレは藪坂秀本人だ」と語る藪坂。はじめは半信半疑だった瑠璃門も、いくつかの証拠を突きつけられて、結局納得する。

その後、くまに恋慕する熊飼というクラスメイトが現れ、そいつを排除するために彼氏彼女を演じるなどした結果、瑠璃門と藪坂は公認カップルの様相を呈するようになっていく。

それはいいのだが、実は瑠璃門には好きな女がほかにいた。麻野宵子、瑠璃門とは中学からのクラスメイト(で、あんまり描写されてないからよく分からないのだが、多分友達以上恋人未満の関係)、実は藪坂秀とも古馴染みで、むかし(男だった頃の)秀に告白して振られたという経歴の持ち主である。

藪坂は瑠璃門に恋愛感情を抱いているわけではなく、麻野との関係を邪魔したいわけでもなんでもない上、宵子が瑠璃門に「くまちゃんとの関係は知ってるけど、でも私も……」みたいな告白をするところを聞いてしまい、このままでは二人の関係が破綻してしまうと考え、でどうするかというと、宵子にも自分の正体を打ち明ける。

話を信じさせるための切り札は、「宵子に告白されたときの文句を一言一句そのまま読み上げる」というものであった。

結局、藪坂は精神的には男であるのだからして、瑠璃門との恋の障害にはならない……という「建前」のもと、晴れて瑠璃門と宵子はカップル成立する。

一応、物語のストーリーそのものは、これで終わりである。

漫画「君の瞳に三日月」収録の「ほとんど以上絶対未満」の感想

なんというか、筋書きの部分だけ読むとただ瑠璃門と宵子の二人を藪坂がくっつけて終わり、という話なのであるが、実際に読むと、非常にモヤモヤする作品である。それは、瑠璃門がほぼ終始一貫として、藪坂を(相手の正体を承知の上でなお)女として見ている、意識している、からだ。

ラストシーンは、夏休み前に、瑠璃門と藪坂が二人自宅にいるシーンで終わる。藪坂は無邪気な態度なのだが、瑠璃門はこう思っている。

「おれ 彼女できたてなのに 麻野といて こんなにドキドキすること あっただろうか?」

そして…

「おれたちはこれから どうなるんだろう お前はその答えを持っているのか 藪坂?」

ここで、ぷつっと、話は終わってしまう。本当に、なんというか、モヤモヤしている関係のまま、モヤモヤしたまま終わってしまうのだ。

ところで、「ここで終わり」なのは、実は最初に出た花とゆめコミックス版単行本においての話である。文庫版、そしておそらく電子書籍版にも、わずか3ページだが、「ルリカドヤブサカその後」という、大学生になった後の二人を描いた描き下ろしがある。

ここには、麻野は出てこない。麻野と瑠璃門が今でも付き合っているのかどうか、すら分からない。とにかく、瑠璃門と、無邪気に瑠璃門の部屋でぐーすか寝ている藪坂だけが描かれる。そして、瑠璃門はこう思っている。

「こんだけ据え膳のシチュエーションで 手を出さないおれ ヘタレだよな」。

ちなみに、オリジナルの単行本『ほとんど以上絶対未満』が1996年刊行、文庫版にこの描き下ろしが入ったのが2005年であるので、3ページ分の描き下ろしを読むために、連載からの読者(筆者は雑誌連載時からの読者である)はざっと10年待った勘定になる。

しかし、この3ページは、感無量の3ページであった。

今でこそ、性転換もののラブコメディなんてさして珍しくはない。しかし、何しろこの作品は、1990年代の中頃に、少女漫画として描かれたのである。当時としては、非常に衝撃的であった。

ところで、文庫版描き下ろしからさらに十余年を経て、特にその後の描き下ろしなどの追加は今のところ、ない。もう永遠に何もないのかもしれない。だが、筆者は、今も、「瑠璃門と藪坂の二人は、あの後結局どうなったのか」を考えて、時々モヤモヤしているのである。

君の瞳に三日月が試し読みできる電子漫画サイト

君の瞳に三日月
BookLive!のボタン
Renta!のボタン
ハンディコミックのボタン
コミックシーモアのボタン