漫画「ヴォイニッチホテル」のあらすじ・感想・ネタバレと試し読みできる漫画サイト

作品名:ヴォイニッチホテル
作者・著者:道満晴明
出版社:秋田書店
ジャンル:青年マンガ
掲載誌:ヤングチャンピオン烈

道満晴明『ヴォイニッチホテル』は、南の小さな島国を舞台にした群像劇だ。主人公である日本人旅行者、クズキ・タイゾウが島の「ヴォイニッチホテル」を訪れるところから物語は始まる。

同作者の過去の作品はとかくエキセントリックなものが多いが、本作品には最低限の常識人が多い。まあ、主人公タイゾウが実は組の金を持ち逃げして南国へと遁走してきたインテリヤクザで、ヒロインでホテル従業員のエレナが見かけは幼女だけど実は数千年の年月を経た魔女で、ホテルの一室で猟奇殺人事件が起こって、その殺人犯を追う刑事がなぜか脈絡もなくアンドロイドだという程度で……むう、こう書いていくとやはり何か奇妙な作品のようである。

ともかく、こうした人々が、日常的であったり、非日常的であったりするドラマを紡いでいく作品なのだ。

メインのストーリーラインは大きく三つある。そして、それぞれが並行並列して重層的に進んでいく。

まずひとつめのラインは、「連続殺人犯スナーク」をめぐる物語。スナークは、決して証拠を残さない。特に指紋を。正体不明の殺人鬼だ。それを追う警察関係者と、「少年探偵団」と名乗る少年少女たちが話のラインを形作る。前述のアンドロイド刑事は何の役にも立たない(役立たず系愛されキャラなのである)が、少年探偵団は、少しずつ、事件の真相に迫っていく。

第二のラインは、少年探偵団のひとり「ハカセ」(あだ名)と、エレナの姉にあたる魔女テネブラルムの悲恋の物語だ。

次のラインは、クズキとホテル従業員・エレナのラブストーリー。二人は恋に落ちる。まあ、よくある話である。エレナが幼児体型で人間ではない、という点を除けば。
 
第四はクズキを抹殺するために派遣されてきた殺し屋たちの物語。彼らは単なる悪役ではない。彼らもまた、愛すべき物語の登場人物として、群像劇を彩る。

また、このほかにもいくつかのサブストーリーラインが存在し、やはり本筋と並行する形で進んでいく。

ヴォイニッチホテルのネタバレと感想

さて、ネタバレである。クズキとエレナは、逢瀬を重ね、やがて夜を共にする仲へと至る。ちなみにエレナは、齢数千歳のはずなのだが、少女そのものの見かけ通り、処女であったらしい。なんともマニアックな設定である。私事であるが、筆者はロリババア好きなので、こういうのは大好物である。

エレナの正体は魔女であるわけだが、この作品の世界における魔女なるものは、人知を超えた存在であるだけでなく、人知を超えた存在たちの中でもずば抜けて強大な力を持つ存在らしい。具体的には、魔界からやってきた悪魔が頭を下げ、避けて通るくらいだ。つよい。

エレナはクズキが追われている事情などを把握しており、やがてクズキを狙ってやってくる殺し屋を片っ端から返り討ちにするようになる。

殺し屋・間宮姉妹という、単体でもけっこう人気のあったキャラクターの姉の方が、「なるべく人は殺さないつもりだったけど、タイゾーさんと結ばれた記念の自分へのご褒美☆」などとキラキラしたことを語るエレナに、惨殺される。(やむを得ないとはいえ、読者としては哀しかった)。妹の方は生き延びて、仕事を諦め日本に帰るが、後でまた出てくる。

エレナとタイゾーの関係は終始うまくいっている。厄介なのは、ハカセとテネブラルムの方だ。テレブラルムは不死の魔女なのだが、遠い昔に受けた毒矢の影響で、肉は腐り落ち、心も壊れているという状態だった。ハカセとの出会い、交際を通じて一時は持ち直したかに見えるのだが、結局また心を失ってゾンビ同然の存在に戻ってしまう。

だが、自分のことを記憶することさえできなくなり、毎回「初対面の人間に対するように接してくる」“恋人”を、ハカセはそれでも愛し続ける。それが二人の物語の結末である。とても美しい愛の形を作者は描き切ったと思う。

一方、スナーク事件は、少年探偵団の「リーダー」(あだ名)が犯人であるスナークが、少年探偵団のメンバーの一人アリス(本名)の姉であることを突き止める。スナークは逃走するが、その最中、彼女が契約していた悪魔(スナークの異様な犯行は、悪魔と契約して得た力によって可能となったものだった)が現れ、彼女の魂を奪い去っていく。ただし、悪魔の温情で、スナークは最後に妹アリスに別れを告げる猶予を得た。殺人鬼ですら、一面では家族を愛する一人の人間なのだ。そういうあたりを描くのが、この作品はとてもうまいのである。

物語はそして結末へと至る。殺し屋たちはだいたいエレナに壊滅させられてしまったため、タイゾウが元属していた組の関係者が大挙して島に押し寄せてきた。たまたま、そのときエレナが島を離れていた為、タイゾウは彼らに捉えられ、拷問を受ける。

エレナはその場に駆け付け、タイゾウに「いいって言うまで、目を閉じていてください」と言い、その間に、タイゾウに害をなした全員を文字通りの肉塊に変える。一方、日本では、間宮姉妹の妹がタイゾウのいた組の生き残りを(動機が描かれていなくてどういうつもりなのかはよく分からないのだが)皆殺しにし、タイゾウは晴れて追手を恐れずともよい身分になる。

最後に、エレナはタイゾウに「実は私 魔女なんです」と打ち明ける。それに対するタイゾウの答えは「知ってるよ」というものであった。


ヴォイニッチホテル

原作・著者道満晴明
価格550円(税込)

太平洋南西に浮かぶ小国・ブレフスキュ島、その小さな島のホテルが舞台。陽光降り注ぐのんびりした南国ムードの中、一癖も二癖もある宿泊客達の悲喜交々ドラマ。

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