漫画「二つの歌三つの物語」ネタバレ感想!アイヌの民話・神話がモチーフの漫画!

二つの歌三つの物語

樹るうの新作である。過去に紹介した作品としては『娘々TON走記』『漫画描きと猫』があるが、この作品は大きくジャンルを変え、「アイヌの民話・神話」がモチーフとなっている。

最近(といってももうかなり前からだが)樹るうはアイヌ系の物語を手がけており、その集大成がこの単行本にまとまったという形だ。

漫画「二つの歌三つの物語」あらすじ

二つの歌三つの物語

本作品は短編集と銘打たれている。繰り返し登場するキャラクターがいたりするので、分類としては連作短編集と呼ぶべきものだろうか。ただ、一つのストーリーが一本の流れとして展開されていくわけではなく、ショートストーリー(一話あたりはかなり短いものが多い)が繰り返される形で話が進んでいく。といっても、素朴な世界が舞台なので、さほど重大な事件が起こったりするわけではない。

アイヌ神話の特色である動物神(カムイ)と、人間たちの関わりが、全体としては優しげなタッチで描かれている。

漫画「二つの歌三つの物語」ネタバレ

二つの歌三つの物語

表題作である。他の短編もみな同じことだが、元になっているアイヌの民話があり、それを作者がアレンジして作られた話であるらしい。老夫婦と一緒に暮らす少女が、人里に引き取られることになるが、実はその老夫婦は、疫病で滅びた村のただ一人の生き残りだった少女を養育するために人の姿を為したカケス(小鳥の一種。アイヌでは霊鳥とされていた)のカムイであった、という物語。

鹿神の語った話

収録順で二作目だが、執筆順でも二作目であり、この作品が書かれたことで全体のシリーズ化が決定されたらしい。内容は、鹿の姿を取って人里に下りてきたカムイが、なかなか自分を狩ろうとしない少年を相手にやきもきする……というもの。ちなみに、その少年は「二つの歌三つの物語」にも登場している、カケスに育てられた少女の夫となった人物である。

松葉で刺したモレウ

ボーイミーツガールっぽい雰囲気のショートショート。前話に登場する少年の兄は雌の猟犬を飼っているのだが、その犬も実は正体が神であり、人の姿をとることができる(その事実は現状ではまだ誰も知らない)。どうも、カムイの身で彼女は人の子に恋をしているらしいのだが……という、伏線が敷かれる話。

熊神と談判

例の兄弟の少年時代を描いた、時系列でいえばだいぶ手前のほうにくる短編。熊神に魅入られそうになった少年が、人の世界に戻ってくるまでの葛藤を描く。

聞く耳語る聲

例のカケスに育てられた少女が再びクローズアップされ、主役として登場する話。動物神ではないカムイが登場する。あるつづらの中に収められていた装身具に、まあ和人の世界でいえば「付喪神」と呼ばれるようなカムイが宿っており、それが「自分を身に付けてくれ」という(少女にしか聞こえない声を)発している、という話。

チセコロウタラ

アイヌの婚姻儀式と家族制度について紹介する掌編。

理の橋

例の猟犬の姿をしたカムイと、その飼い主である一家の長男、イタクノアの物語。イタクノアはレタラ(例の猟犬の名前)の正体に薄々気づき始めている。熊を狩るための旅に出る、というところで、次巻に続く、となっている。

漫画「二つの歌三つの物語」感想

二つの歌三つの物語

単純にストーリーや絵柄を楽しむための作品というだけではなく、アイヌの文化や伝統について紹介しつつ物語を展開する、そいう側面が色濃い作品になっている。筆致は全体的にしっとりとしていて、昔の作品にあったガムシャラさやスラップスティック的なところはもう影を潜めて久しい。

長く同じ作家を追い続けていると、その作風の変遷というものもまた、一つの楽しみとなるものだ。そういう意味では、アイヌ民族を描く作家としての樹るうの今後には、期待するところが大きい。

二つの歌三つの物語が試し読みできる電子書籍ストア

二つの歌三つの物語
BookLive!のボタン
ハンディコミックのボタン
eBookJapanのボタン
コミックシーモアのボタン

※各電子書籍ストアにて試し読み可能。電子書籍ストア内にて「二つの歌三つの物語」で検索すると素早く絞り込みできます。