シオミヤイルカ版「キノの旅」漫画2巻のネタバレ感想!政治的風刺の多いエピソード中心の問題作を収録

キノの旅(2)

シオミヤイルカによる『キノの旅』、2巻である。並行して別の漫画家「郷」による同原作のコミカライズ1巻が刊行されているので、こちらは「シオミヤイルカ版」と呼称する。

郷作「キノの旅」

シオミヤイルカ版「キノの旅」2巻のあらすじ

キノは旅人である。エルメスと名付けられたモトラド(注:二輪車。空を飛ばないものだけを指す)に乗って、諸国を渡り歩く旅をしている。

この基本設定も、原作ではキャラが増えたりして徐々に変わっていくのであるが、シオミヤイルカ版2巻においてはまだこれ以上のプロットはほとんどない。

1巻では一切パースエイダー(この世界における銃器の総称)を用いなかったキノであるが、2巻では一回だけ、完全に自衛のためとはいえ人を撃つシーンが挿入されている。

収録されているエピソードは、それぞれ中編で、「多数決の国」と「平和な国」の二つである。

キノの旅(1)

シオミヤイルカ版「キノの旅」2巻のネタバレ

多数決の国1/2

いつものようにエルメスで旅をしているキノが、ある国の城門に辿り着く。門は開け放たれており、誰もいない。とりあえず入ってみることにする。ちなみに、長大な『キノの旅』原作シリーズにおいては、このパターンはさほど珍しくはない。

それなりに立派な街だが、人はいない。1巻の「人の痛みが分かる国」とは異なり、人が隠れているという気配もなく、無人であり、微妙にだが荒廃が始まっている雰囲気だ。ロボットがホテルを営業しているなどということもないので、市街地の真ん中で野営をする羽目になる。

探索2日目、キノは公園のようになっている立派な王宮跡と、広大な墓所を見つける。住人はやはりいないようだった。

ところが探索3日目、一人の中年男に出会う。男は、自分はこの国でただ一人の住人であると名乗り、この国の歴史を語り始める。曰く。

「この国には10年前まで王がいた。暴君であり、多くの人々が殺された」

多数決の国2/2

男の話は続く。「やがて革命が起きた。私は初期からそれに参加しているメンバーの一人だった」

「王は国を逃れようとして捕縛され、革命は成就した。我が国は、もう二度と王を戴かないと誓い、あらゆる事柄を多数決で決めることにした。最初に決めたことは、国王とその家族と取り巻きをどうするか、だった。98%の賛成多数で、彼らは処刑された」

「その後、共和政体を主張するもの、死刑の廃止を主張するものなどが現れたが、すべて国家への反逆者として処刑された」

「新政府になってから執行された処刑の回数は、1万3064回だった」

「ついに人口は残り3人となり、1人は国を出ていくと言った。私と妻は、2対1の多数決で彼を処刑した」

「妻は病気になり、半年前に死んだ」

「今、この国の国民は私だけだ」

そして男は、キノに「この国で暮らさないか」と言うが、キノはにべもなく拒絶し、去っていく。去り際に、キノはぽつりとこう言う。

「さよなら、王様」

平和な国1/2

キノはある国に辿り着く。文明の進んだ、平和で繁栄した国だった。ただ一つ気がかりだったのは、入国前、国の近くで、死体の山を目撃したことであった。

国の歴史を知りたい、と言うキノに、国民たちは「歴史博物館」を訪れることを薦める。そこの館長は、この国はかつて隣国との間にひどい戦いを繰り広げていた、という話を語る。そして、キノに見せる。現在行われている「戦争」が、どんなものであるかを。

それは、両国とは関係のない近隣の原住民を殺戮し、その数を数え、より多く殺した方が勝ちである、という催しだった。

平和な国2/2

キノは館長に、あれは虐殺ではないのか、という至極もっともな疑問をぶつける。館長は、そう見えるかもしれないが、あのおかげで確かに我が国は「平和な国」であることを維持しているのだ、と語る。

キノはどう思ったのか、いずれにせよ、ポリシーである三日間の滞在期間が過ぎたので、国を発つことにする。そこに、例の原住民の集団が現れ、単なる旅人であるキノを、憂さ晴らしのためだけに殺そうとする。

だがキノは強いので、リーダーらしき男を撃ち殺し、そのまま去っていく。

シオミヤイルカ版「キノの旅」2巻の感想

キノの旅(2)

なんとも、微妙な読後感である。この単行本だけ読んでも分からないだろうが、原作小説のシリーズを読んでいれば分かる。「多数決の国」と「平和な国」は、このシリーズの中でも屈指の、政治的風刺の色彩が強い作品だ。

はっきりいって、評判はよくない。こういう作品があるから『キノの旅』自体が嫌いだと公言する人も少なくないし、この話が格別好きだ、なんて読者の話もあまり聞かない。

この二つの話が果たして原作者の個人的な「政治的思想」を反映したものなのかどうかは、筆者にはどうでもいいし、興味もない。ただ、こういう話をあえてわざわざチョイスしてきたシオミヤイルカ版『キノの旅』が、今後どういう方向を目指していくのかについては、相変わらず興味を引かれているというところである。


キノの旅(1)

キノの旅 theBeautifulWorld

原作・著者シオミヤイルカ / 時雨沢恵一 / 黒星紅白
価格660円(税込)

短編連作の形で綴られる人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅の話。1巻では「大人の国」「人の痛みが分かる国」「レールの上の三人の男」を収録。

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