ライター『藤沢文太』が推薦するおすすめグルメ漫画7作品

グルメ漫画、というものはずいぶんと昔からある。しかし、ここ最近、新しい「グルメ漫画」の隆盛、つまりは「もう一つのグルメ漫画ブーム」とでも言ったようなものが起こっている、と筆者は考える。

そもそも、料理漫画といえば、昔は「料理対決」がお約束であった。『美味しんぼ』『ミスター味っ子』などが典型だ。こういう漫画もなくなったわけではないが、しかし新しい流れとして、単に「食べる」ということを追及する、日常生活の中での「料理」というものを描いていく、といったような性質の作品が増えている。

筆者としては、そのブームの起点にあったのは、『孤独のグルメ』という作品ではないかと思う。この作品自体はとても古いのだが、この作品への再評価から、新しいタイプのグルメ漫画ブームが始まったのではないか、と。では、いくつか、筆者選り抜きの「新感覚グルメ漫画」を紹介していこう。

おうちでごはん

おうちでごはん
作品名おうちでごはん
作者・著者スズキユカ
出版社竹書房
ジャンル青年マンガ

『おうちでごはん』。のっけから、有体に言ってしまえば地味な作品である。この作品の主人公は、料理人でもなんでもない、ただの自炊が趣味の大学生の青年(雰囲気的にはまだ少年っぽい)。タイトル通り、おうちでごはんを作って食べる。外食は滅多にしない。

ちなみに主人公はアパート住まいで、今時の日本のアパートには珍しく近隣住人の仲がとてもよく、というか、ほとんど落語や時代劇の長屋モノのようなノリで、みんなで一緒にごはんを食べているところが頻繁に描かれる。ケーキ作りが趣味の住民というのがいて、その人は多少のスキル持ちであるが、他は「カレーしか作れない」とか「食べる専門」とかそんな人たちばっかりだ。

この漫画の特徴は、料理絡みの描写がとにかく徹底的にリアルである、ということ。主人公の鴨は料理が得意だが、たとえば、調理実習などの際に「鍋が変わる」だけで実力が発揮できなくなってしまう、といったような描写がなされる。料理が得意だからって、見たことも扱ったこともない食材を提示されると、手も足も出ない。漫画に出てくる「料理が得意な人」というのは何でもこなせてしまうケースが多いのだが、この作品は本当にリアルだ。

いちおう鴨と友達以上?みたいな女性が出てきたり、可愛い義妹に懐かれていたり、萌え的描写もゼロではないが、そっちはごく薄め。

トリコ

トリコ
作品名トリコ
作者・著者島袋光年
出版社集英社
ジャンル少年マンガ

週刊少年ジャンプで連載され、ワンピースなどと並んで朝アニメとして放送もされた人気作品。『おうちでごはん』とはうってかわって、ファンタジー感全開のグルメ漫画である。

この漫画にはおいしそうな食べ物が山ほど出てくるのだが、主だったものは基本的に、実在しない。かいつまんで紹介してみるが、「ベーコンの葉」だとか、「バナナきゅうり」だとか、まあ実在するものをベースにしてはいるが、ファンタジックな存在として再構築されている。そういったような「美味な食材」を集める、というのがこの作品の主題である。

ちなみにバナナきゅうりは、ベーコンの葉で巻いて食べると絶品だそうである。どんな味がするのか、分かるような分からないような感じだが、作中人物がおいしそうに食べているのを見ているとおいしそうに見えるから不思議だ。

ちなみに、週刊少年ジャンプであるので、料理ばかりしているわけではなく、バトルもある。料理バトルではなく、食材を巡って、ライバル関係にある者同士が物理的に衝突する、という設定だ。そっちもそっちでやっぱりファンタジック異能力バトルなのだが、それはそれでなかなか面白い。

異世界居酒屋「のぶ」

異世界居酒屋「のぶ」
作品名異世界居酒屋「のぶ」
作者・著者ヴァージニア二等兵 / 蝉川夏哉 / 転
出版社KADOKAWA / 角川書店
ジャンル少年マンガ

ここまで紹介した二作品が「リアル」と「ファンタジー」であるとするなら、この作品はリアルとファンタジーの“接点”で生まれる妙味を描いたグルメ漫画である。ちなみに原作は小説で、漫画はコミカライズ版。

この作品はいわゆる、異世界ファンタジーだ。だが、「ハイ・ファンタジー」でも「往還型ファンタジー」でも「転生ファンタジー」でもない。簡単に書いてしまうと、中世ヨーロッパ風ファンタジー世界の一角に何故か唐突に和風の居酒屋があって、その裏口が現代日本に繋がっている(どうなっているのか分からないが、電気もガスも通じている)という構造になっている。

居酒屋のあちら側のファンタジー世界は、「古都」と呼ばれているが、どうもあまり食に恵まれた街ではないようだ。そこに、現代文明の恩恵たる、「トリアエズナマ(冷えたビール)」やら「茹でた豆(枝豆)」やら「揚げたてのから揚げ(レモン添え)」やらが持ち込まれ、住人が感動する、という寸法になっている。

現代日本を舞台にしたグルメ漫画であったなら、「ビールが冷えている!なんと!素晴らしい!」なんていう描写はあまりできるものではない。だがこの作品の中では、そういった我々の世界では当たり前のことがいかなるほどの技術の賜物であり、また美食であるか、ということに、新しい角度から光が当てられているのだ。

喰いタン

喰いタン
作品名喰いタン
作者・著者寺沢大介
出版社講談社
ジャンル青年マンガ

この作品は異色である。ちなみに作者は『ミスター味っ子』や『将太の寿司』などで知られる、長年グルメ漫画を手がけている漫画家であるからして、グルメ漫画の系譜ではあるのだろうが、まず、主人公は料理人ではない。探偵である。喰いしん坊探偵高野聖也、人呼んで『喰いタン』。

喰いタンというのは多分麻雀用語の喰いタンを元にしているのだろうが、別に麻雀をする漫画ではない。そして、職業が探偵であるところの人が、趣味で美食巡りをする、という漫画なのでもない。

なんと、この漫画は、「喰うことで推理をする」探偵を主人公にした、「喰うミステリー漫画」なのである。まあ、現実的な話ではないものがほとんどなので、基本的にはコメディだ。

しかし、推理は実際にするのである。事件現場の遺留品を勝手に喰いまくり、「この味からしてこの現場で起こった状況はこうでこうで〜」とやって、事件を本当に解決してしまう。無茶苦茶といえば無茶苦茶なのだが、筆者は大好きだ。

ちなみに物語的に幕切れのようなものがあったわけではないのだが、いちおう全16巻で第一部完、ということになっている。いつか続きを描いてくれないものであろうか。

鬱ごはん

鬱ごはん
作品名鬱ごはん
作者・著者施川ユウキ
出版社秋田書店
ジャンル青年マンガ

鬱々と飯を食うから鬱ごはん。グルメ漫画ではないのかもしれない。作者自身によれば、「美味しそうじゃない飯を美味しそうじゃなく食べる、今まで無さそうで無かった食漫画」とのことだ。

主人公鬱野は非常にネガティヴな性格で、いつもまずそうに飯を食う。「何を食べてもおいしくない」とか、「食事という行為は大変に面倒くさいものだ」などと吹聴している。ちなみに職業は、フリーター。(言動からすると引きこもりのニートそのものなのだが、一応アルバイトはしているのでニートではない)。

ちなみに、普段から付き合いのある友人はおらず、いつも「妖精」と称する黒猫の姿をしたイマジナリーフレンド(脳内の友人)と対話をしながら飯を食っている。

もっとも、鬱野は一見まずそうに飯を食っているが、本当に食事と言う行為そのものを嫌っているのかといえば、そうでもない。「たまには焼肉屋でも行くか」→「潰れてた」→「コンビニで焼肉弁当を買って食べる」→「脳内の妖精に、そこまで妥協してまで焼肉喰いたかったんか、と突っ込まれる」などという流れを見ていると、食べたいという感情が彼の中にないわけではないのである。

どんな人間だって、それこそ鬱の人間だって、食べるということを必要とする。筆者は、これはそのことを逆説的に描いた漫画なのだと思っている。

姉のおなかをふくらませるのは僕

姉のおなかをふくらませるのは僕
作品名姉のおなかをふくらませるのは僕
作者・著者恩田チロ / 坂井音太
出版社秋田書店
ジャンル青年マンガ

多くの人はこのタイトルから違う意味を連想するであろうし、実際それを意図してこういうタイトルにしているに決まっているのだが、残念ながら(?)これはグルメ漫画である。というか、ジャンルとしては家庭料理漫画。「姉のおなかをふくらませる」とは、おなかいっぱいごはんを食べさせるという意味である。

姉は高校2年生、弟は小学生(なお、ものすごい美少年)、ちなみに血は繋がっていない義理の兄弟だが、仲良し。

なお、タイトルには二重のトラップが仕掛けられており、姉弟で交互に料理当番をやっているので、姉が弟の分まで含めて料理をする回もある。中華料理店のチャーハンが気に入って、自分でチャーハンを作ることに凝り始めたりする。そのへんは普通に料理漫画をやっている。

ちなみに登場する料理はそんなに癖のない、普通の家庭料理だ。なお、タイトルの雰囲気と違って健全な漫画とはいえ、掲載誌の特性ゆえか、パンチラくらいは平然と出てくるし絵柄は可愛い系である。

ダンジョン飯

ダンジョン飯
作品名ダンジョン飯
作者・著者九井諒子
出版社KADOKAWA / エンターブレイン
ジャンル青年マンガ

この作品は、ライトではあるが、いちおうの区分としてはハイ・ファンタジーであると思われる。まず、ファンタジー世界にファンタジー的ダンジョンがある。そこに挑戦する冒険者たちがいる。多くの冒険者がいて、探索がシステマティックに洗練されて組織化されているという点では、アニメにもなった有名なライトノベル『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』に似ていなくもない。

同じファンタジー系のグルメ作品ということでよく『のぶ』と並べて論じられることもあるのだが、舞台がファンタジー風世界であるという点以外にはあまり共通点はない。むしろ、あえて言えば『トリコ』の方が近いくらいではないかと思う。

この漫画は、基本的に、「ダンジョンを探索しながら、ダンジョンにいる魔物や、ダンジョンで採れるものをおいしく調理していく」というプロットからなっている。モンスターグルメ道の探究者であるドワーフのセンシ(職業が戦士なのではなく、センシという名前)と、主人公たち一行が、モンスターを狩り、調理し、食べながら話は進んでいく。ファンタジーの定番ドラゴンも出てくるが、「ドラゴンはうまいのか そして、どう調理するのが一番いいのか ずっとそれを探求していた」とセンシは語る。そういう作品である。

おわりに

というわけで、七作品をご紹介した。はっきりいって、「食べる」ということ以外に、共通点はあまりない七作品ではある。だが、「食べる」ということより普遍なことは、そうそうない。食べない人間はいない。食べる、という行為は、人間の根源である。そこから多彩なプロットが生まれてくるのも、また作品創作の必然というものであろう。

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