JR中央線を舞台にした4コマ漫画「中央モノローグ線」あらすじ・ネタバレ感想

中央モノローグ線
中央モノローグ線
作品名:中央モノローグ線
作者・著者:小坂俊史
出版社:竹書房
ジャンル:青年漫画
掲載誌:バンブーコミックス 4コマセレクション

漫画「中央モノローグ線」あらすじ

この作品は、「中央線」沿線を舞台にした四コマ漫画である。筆者の所持する単行本の帯のアオリにはこうある。「中央線女子物語」。「中野、高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪、西荻窪、吉祥寺、三鷹、武蔵境。JR中央線沿いの街に住む8人の等身大な『今』を描く青春群像劇!!」

まあ嘘は言っていない。主人公は8人いて、群像劇である。

しかし、女子物語と言われるとなんか色っぽそうだが、絵柄の性質、また作風の特徴からあんまり、というかほとんど「萌え」みたいなものも、また逆に「少女漫画的浪漫」もないので、そのへんは期待なされないよう。

ではこの作品の魅力はどこにあるのか?それは次でご説明しよう。

中央モノローグ線 ネタバレ&感想

この作品の影なる主役は、「街」そのものである。街の個性、街の特徴を、8人の主人公の視点から、切り取って描いていくのだ。そこにこの作品の妙味がある。

まず、この作品の中でもっとも頻繁に登場し、8人の中でもっとも重要な主人公でもあるイラストレーター・なのかが暮らしている街が、中野だ。中野は、秋葉原に次ぐオタクの街、プチオタク街である。「中野ブロードウェイ」という、オタク系の店がぎっしり詰め込まれた名所があるのだ。「ただしブロードウェイ以外の部分は普通の街」という落ちもつくのだが。

ちなみにネタではなく楽屋の事情をバラすが、中野が一番クローズアップされているのは作者・小坂俊史氏が長く中野で暮らしていたという事情があるからだ。なのかの職業がイラストレーターで、また彼女が単身の自由業者であるのも、執筆当時の作者の自己投影によるものである。(なお、本作品とは関係ないが、現在は小坂氏は結婚している)

順番通りにいこう。

次は高円寺
高円寺は若者の集まる街であるらしい。そんな街で、マドカは古着屋をやっている。客は貧乏なバンドマンとか、そんなんばっかりである。

阿佐ヶ谷
商店街・パールセンターを中心とした、割とさっぱりこじゃれた感じの街。なのだが、阿佐谷七夕まつりといって、毎年七夕になるとパールセンターじゅうに巨大なハリボテが飾られる、などという個性的一面もある。麻美はここでOLをやっている。

荻窪
ここはいまいちキャラが立たない。シングルマザーの圭がこの街の住人だが、圭自体あんまり出てこない。たぶん、作者も書きあぐねたのではなかろうか。

西荻窪
こぢんまりとした街。劇団員・茜が暮らす。開き直って「キャラが立ってないのがこの街のキャラ」という扱いになっている。

吉祥寺
ここは有名な街である。中央線というか東京を代表するサブカルチャーの拠点だ。あと、「カップルでボートに乗ると破局する」というので有名なでっかい公園がある。恋多き女・祥子がこの街で暮らしており、ねんじゅうボートに乗っている。

三鷹
三鷹は三鷹だけで一個の市である。見どころは多い。有名なジブリ美術館があり、太宰治が生き、死に、そして葬られた場所だったりもする。大学生ミカは三鷹の実家から山手線内の大学に通っている。

最後に武蔵境
中学生キョウコはこの街の住人だ。武蔵境まで行くと、「中央線の中央線らしさ」というものがすっかり抜けて、もう普通の街である(らしい)。キョウコは「中央線らしい中央線沿線の街」に憧れを抱いていて、中央線で通学すべく、23区内の高校に入ろうと受験勉強に励んでいる。


さて。で、これらの街を舞台にどんな群像劇が繰り広げられるのか、というと、とても地味である。

事件らしい事件が起こらない。作中ではまだしも出来事性の高い話をちょっと抜き出してみるが、「中野駅前の丸井デパートが潰れました」「キョウコが23区の高校に落ち、地元の高校に通うことになりました」「吉祥寺の伊勢丹の閉店が決まりました」そして物語の終幕、「なのかが、中野を離れることになりました」こんな調子である。地味だ。まったく劇的な要素は無い。

しかし地味であるが、味わいは深い。

それは、作者の中央線に対する愛の深さ、街々に対する愛の深さから来るものであろう。またもっと簡単に言えば、ギャグ漫画としての面白さがあるからでもある。小坂俊史は、地味系エッセイギャグの達人なのだ。

中央モノローグ線は一巻完結である。ただし、続編というか、なんというか、同じ系列のシリーズはある。

中野を離れたなのかは、遠野(岩手県遠野市)に引っ越す。遠野を舞台に、髪を切ってイメチェンしたなのかを主役に描かれるのが、『遠野モノがたり』という作品。再び群像劇となって描かれる(なのかはまた登場する)そのまた次の作品が『モノローグジェネレーション』である。全三部作であり、総称して、「モノローグシリーズ」と呼ばれている。

だが筆者としては、モノローグシリーズの中で、そしてまた小坂俊史の多くの作品の中でも、この『中央モノローグ線』がとりわけ好きである。小坂俊史の作風の特徴の両輪である「物悲しさ」と「ほのぼの感」のバランスが絶妙であるからだ。

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